「電車なのに自転車操業…」。キャッチーなコピーや、名物「ぬれ煎餅」、あるいは「経営状況がまずい」ということにかけてネーミングされて昨年の発売以降大ヒットの「まずい棒」。このようにアイデア商品や話題性によって何かと有名な銚子電鉄は、今や鉄道ファンのみならず多くの人々に知られている。鉄道会社とは思えないような型破りの経営手法を、いま改めてひもといていきたい。(鉄道アナリスト 西上いつき)

「会社が貧乏」を
ブランドに変えた猛者

銚子電鉄の外川駅駅名ネーミングライツによって「ありがとうの駅」となった外川駅 Photo:PIXTA

 鉄道だけにとらわれず、関連事業で収益を上げるビジネスモデルというのは、大手私鉄をはじめとして一般的である。

 多くの場合、鉄道事業が安定した収益を上げていて会社の屋台骨を支えており、かつ知名度の高い看板があるからこそ成り立つモデルであるが、銚子電鉄の場合はその逆で、収支の状況が厳しい鉄道事業に代わって、関連事業でその赤字の穴埋めを行うという特異なやり方だ。

 有名なところではヒット商品「ぬれ煎餅」や、駅名の命名権を売り出す「駅名ネーミングライツ」、さらには社長のDJ(どん引きする冗談)を聞きながら運行される「DJ社長の貸切電車」など、ユーモアに富んだ新しい商品・サービスが続々と生まれてくる。他の鉄道会社にはないビジネスモデルにより、革新的なアイデアでさまざまな事業を展開する銚子電鉄。次々と新たなアイデアを打ち出してファンを楽しませてくれる同社のベンチャー精神には、毎度感服するばかりである。

 そして今年7月にはナビタイムジャパン社とともに観光型MaaS(Mobility as a Service)の実証実験にも乗り出した。昨今、公共交通事業者の中でも新たな移動の概念として何かと話題で、2019年は日本版MaaS元年ともいわれており、鉄道大手各社もようやく動きを見せ始めたところである。「金はないけどできることは即決裁」と言うだけあって、大手各社に先駆けて実証実験に踏み切った。先述のように多くのアイデアが次々に打ち出されている背景には、銚子電鉄の即断力が見てとれる。

 アイデアだけではなく、巧みなブランディングの手法にも注目したい。

 例えば、冒頭に挙げた「まずい棒」は先日販売本数が100万本を突破するなど好調なのに加えて、近日「スーパーまずい棒」という“続編”もリリースされる。さらには「存続にむけて経営がサバイバル」とのことから発売された「鯖威張る弁当」は、地元居酒屋とのタイアップで実現したもので、こちらも同様に人気を博しているようだ。

 とかく恥じらいの文化でもある日本で、誰しも「懐がさびしい」状況を大っぴらにしたいものではない。「会社の経営状況が悪い」なんて、世間体もあって胸を張って言いたいものではない。ところが銚子電鉄はあえて、この劣悪な経営状況を自虐的に売り出して、「強み」に転換しているのだ。