高額だと露出機会が減るというジレンマ

 2020シーズン以降の海外放映権についての本格的な交渉・入札は2019年の初旬から開始したが、その準備は2年以上前から進めていた。代理店依存であった体制から脱却すべく、Jリーグは世界各国の放送局・配信社と直接接触し、ネットワーク構築に努めてきた。先述のSPORTELにも積極的に足を運び、各国放送局や大手代理店のキーマンたちとのネットワークを構築、Jリーグの存在をできる限りアピールしてきた。そこで得られる情報はまさに生きた情報であり、グローバルでの最新トレンドに触れるにつれ、海外においてJリーグは現状の対価以上に高く評価されていることをひしひしと感じていた。

 放映権のディールにおいて、放映権料(Rights fee)と放映露出(Exposure)はトレードオフになる場合がある。

 権利を代理店に販売するケースを想像すれば分かりやすい。代理店が高い金額(放映権料)で権利を買った場合、代理店は支払った権利料を回収しなくてはならないため、安い金額では放送局等に販売しない。そうすると販売先や機会は限定的になり、放映によるリーグの露出自体は減ってしまう。

 特に海外においてJリーグは露出をもっと増やし、価値を高めていくフェーズにあるため、必ずしも放映権料の金額だけにこだわったディールは得策ではなかった。一方で、海外での価値を高めていくにも投資原資は必要であり、放映権料収入を伸ばすことも重要である。そこで新規契約の交渉を始めるに先立ち、2つの獲得目標を定めた。

(1)戦略的な権利の細分化と販売先最適化による放映権料の最大化。
(2)海外におけるJリーグの価値を正確に把握し、それを高めていくことのできる座組での契約。

 つまり、未来に向けての投資ができるだけの放映権料確保と露出増大を両方達成しようという目標である。

習近平国家主席がサッカー成長戦略を主導

 Jリーグは2012年からアジアでの市場開拓を進めている。アジア各国のリーグとも手を組み、アジアのサッカー市場勃興を目指しながらアジアにおけるJリーグの存在感を増して人気を出していくという取り組みである。東南アジアを中心とするアジアのスター選手を積極的にJリーグに受け入れ、自国でのファンを増やすといった戦略も取っている。現在では多くのタイ人選手がJリーグで活躍し、タイにおけるJリーグへの関心度はイタリアのセリエAやフランスのリーグ・アンのそれを超える約50%に迫るなど非常に人気が高まっている。

 中国では習近平国家主席がリードするサッカー成長戦略もあり、サッカーに集まる注目度・資金はすさまじい規模になっている。ACL(AFCチャンピオンズリーグ)で中国のクラブとJクラブが度々対戦することもあり、中国でのJリーグ認知もだいぶ高いことがリサーチできていた。そのような背景から今回の新規放映権契約においてもタイ・中国は主要な戦略市場として位置付けており、現地の放送局や代理店とのコミュニケーションを深めてきた。

 結果的にタイにおいては現地放送局と直接契約する道は選ばなかったが、中国においてはCSMと直接契約することで合意した。CSMは中国スーパーリーグの放映権やマーケティング権を長期で保有しており、中国サッカー界に造詣が深いというのも、将来的な協業を考えた際にメリットとして感じていた。