その場で映像を確認すれば分かる問題じゃないのか。それなのに、なぜ大相撲やプロ野球、あるいはテニスのようなビデオ判定制度がJリーグにはないのか――。J1の浦和レッズ対湘南ベルマーレで起こった、明らかなゴールが認められない世紀の大誤審が、サッカー界を越えて物議を醸したことはまだ記憶に新しい。世界のサッカー界における映像を駆使した判定制度の現状と、再発防止へ向けてJリーグが取ろうとしている対応策をあらためて追った。(ノンフィクションライター 藤江直人)
“世紀の大誤審”で
湘南のゴールが認められない事態に
大相撲にビデオ判定が導入されてから今年で半世紀になる。1969年の春場所2日目。45連勝中だった横綱・大鵬が行司差し違えの末に前頭筆頭の戸田に敗れた一番で、大鵬が押し出される直前に戸田の右足が土俵を割っていることが、NHKの中継ではっきりと映し出されていた。
横綱・双葉山が持つ69連勝への挑戦が、歴史的な誤審によってあっけなく止まった。世間の反響はすさまじく、日本相撲協会は翌五月場所から「ビデオを勝負判定の参考にする」と発表している。日本のみならず、世界のプロスポーツ界でも初めての試みだった。
今では野球界でもMLB、NPB双方で導入。テニスでは今年1月の全豪オープン準決勝で、大坂なおみがマッチポイントとなるサービスでビデオ判定によるチャレンジを要求し、勝利を告げる画像が映し出されるまで両手を合わせ、心の中で「お願い」と祈るポーズが世界中で話題を呼んだ。
アメリカのNBAと日本のBリーグを含めたバスケットボール、ラグビーやNFLを含めたアメリカンフットボール、オリンピックを含めたバレーボールの世界三大大会、レスリング、柔道などスポーツ界で幅広く実施されているビデオ判定が、なぜ日本のサッカー界では導入されていないのか。
ファンやサポーターだけでなく、世間全体で大きな物議を醸したJリーグにおける世紀の誤審をあらためて振り返った時に、ビデオ判定をめぐってこうした声が聞こえてくる。DAZN(ダ・ゾーン)で動画配信されているのだから、映像で確認すればすぐに事実が明らかになるはずだ、と。
ゴールが認められない、前代未聞の誤審が起こったのは5月17日。浦和レッズのホーム、埼玉スタジアムで行われた明治安田生命J1リーグ第12節の前半31分だった。湘南ベルマーレのMF杉岡大暉が放った強烈なミドルシュートが右ゴールポストを弾き、反対側のサイドネットに突き刺さった。