10月に山梨県のリニア実験線で起きた、車両からの出火事故。リニアは線路の9割がトンネルだから、火災には不安を覚える人も少なくないだろう。しかし、JR東海の情報公開があまり積極的ではないことや、ローカルメディア以外は詳しく報じていないこともあって、真相がよく見えないままだ。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
試験車両出火事故で
安全性に疑問の声も
今年10月、山梨リニア実験線の車両基地で、車両から出火する事故が発生したことを覚えているだろうか。大手紙の地方版や地元紙、ローカル局が報じたほかは、産経新聞のweb版が多少詳しく取り上げた程度だったので、初耳という人もいるかもしれない。
事故の概要は次の通りだ。10月7日午後4時頃、山梨県都留市の車両基地に停車中のリニア試験車両の車内で、作業員3人が試験データを取得するために「断路器」と呼ばれるスイッチを切り、作業後に再びスイッチを入れたところ、断路器から発火。火花が作業員の衣服に燃え移り、2人が重傷、1人が軽傷を負い、病院に搬送された。
この事故に対し、静岡県の川勝平太知事は、10月11日の定例記者会見で「火災事故はリニア新幹線への信頼を揺るがしかねない事態ではないか」と記者から問われ、開口一番「いいご質問だと思います」と応答。「もしこれが走行中であったり、あるいはアルプスの下であったらどうなるのか」として、JR東海の危機管理体制を批判した。
川勝知事は、リニア中央新幹線のトンネル工事によって「大井川の流量が減少する」と主張しており、JR東海と対立している。このコメントは、いわば大井川を巡る対立が火災事故に“延焼”したものであり、中立な評価とはいえない。
しかし、リニア中央新幹線は全長286kmの9割でトンネルを走行する。さらに、出火した試験車両は、営業用仕様第1世代に位置付けられる「L0系」車両だから、川勝知事と同じような疑問や不安を抱く人がいても不思議ではない。
もっとも、原因となった断路器は、特定の機器を電気回路から切り離すためのスイッチであり、走行中に操作する機器ではない。したがって今回の出火事故を、そのままリニア運行の不安に結び付けるのは適切ではない。しかし、こうした基本的な情報も含め、JR東海の発信が消極的であるため、不安の「火種」がくすぶったまま時間だけが経過しているのが現状だ。