隊員は返答しながら、家の中へ入っていく。

「あの、本当に不要なんです。本人の意思ですから。おじいちゃんは肺がんで、延命治療は望まないと言っていましたから。このまま逝かせてあげたいんです、お願いします」

 懇願する家族、葛藤する隊員。これは架空のやりとりだが、現実にも、こうしたことが頻繁に起きていることをご存じだろうか。

『第15回つるみ在宅ケアネットワーク公開勉強会』の様子
『第15回つるみ在宅ケアネットワーク公開勉強会』の様子 Photo by Hiromi Kihara

 去る11月16日(土)、横浜市の鶴見区で開催された『第15回つるみ在宅ケアネットワーク公開勉強会』で基調講演に立った済生会横浜市東部病院・救命救急センター・センター長の山崎元靖さんは、集まった聴衆、およそ300人に向かって語り掛けた。

 この勉強会は、鶴見区医師会を中心とする在宅医療に関わるグループが「人生の最終段階をみんなで考えてみましょう“そのとき 救急車をよびますか?”」と題して開催したもの。

「119番通報をする方の中には、次のようなお願いをする方が珍しくありません。可能だと思いますか。

・サイレンは鳴らさないで来てください
・そんな急がないで、ゆっくり来てください
・午後○時に来てください

 救急車は、このようなお願いをかなえることはできません。消防は1分1秒を争って出動する組織ですから、サイレンは絶対鳴らすし、赤信号でも止まらず、全速力で駆けつけます。呼吸や心臓が止まった患者を、蘇生しないで搬送することもできません。

 消防法では、応急処置や搬送は原則義務化されているので、119番通報自体が蘇生希望と解釈されます。本人の意識がなければ、蘇生しないことが本当に本人の意思なのか分からないし、処置をせずに患者さんが亡くなられた後、現場にいなかった家族から訴えられる可能性もある。ご家族の願いに背いて蘇生することに罪悪感を抱き、救命士は葛藤しています。

 こういう事例は毎日のように、全国で起きています」

 なぜ、患者の家族は、119番通報をしておきながら、蘇生を拒むのだろうか。

終活は盛んだが
ノートに書いても、死に方は選べない

「私が働いている救急病院には、年間6000人、1日20人ぐらいの方が搬送されてきます。一刻を争って搬送されてくるのに、到着した瞬間『治療をやめてください』と家族から言われるケースが毎日のようにある。何かがおかしいと思ってきました」