地震や水害などの災難を未然に防ぐのは何よりも大切なことだ。しかし、それに尽力した人は残念ながら感謝されない場合が多い。人々を災難から救出した人が感謝されるのと同様に、事前に防いだ人も感謝されるべきなのになぜだろうか。(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
災害を防いだケースはなぜか報道されない
2019年もあと1カ月を切った。今年は、災害の多い年であった。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々にお見舞い申し上げる。
水害の被災者を必死に救助する自衛隊員等の方々の働きには本当に頭が下がるし、感謝している。しかし、それと同じくらい、「起きるはずだった水害」を未然に防いでくれた人にも感謝したい。
台風19号は、昭和33年に発生し伊豆半島と関東地方に大きな被害を与えた狩野川台風の再来ともいわれたが、不幸中の幸いとして、被害は狩野川台風を下回るものにとどまった。その最大の理由は、治水事業に携わった方々の努力のたまものである堤防などのおかげであったことは間違いないだろう。
しかし、マスコミは数多くの堤防のなかで決壊したものばかり重点的に扱い、堤防のおかげで被災を免れた地域のことをほとんど報道していない。起きたことを報道する方がたやすいのは理解できるが、「起きなかったこと」にも力を入れて報道すべきではないか。
それが「治水対策は重要だ」という認識につながり、携わっている方々に私たちが感謝する機会をもたらすと同時に、将来の防災に向けて一層の治水対策が必要だ、という人々の認識も高められるからだ。