赤ちゃんが欲しいから
ピルを飲むのは嫌だった

 うなだれたまま、ぼーっとしていると、正明さんからLINEが来た。急いで開けて、目を通した途端、志津さんの目から涙がこぼれた。

「もう我慢できない、離婚しよう」

 ありえないと思った。だが、悪いのは自分だ。震える指で、返信した。

「本当にごめんなさい。これから気を付けます。病院も行って、コントロールする方法を教えてもらうから。帰ったら話を聞いてください」

「話はこれまでもしてきただろ。生理を来なくさせる薬があるんだろ。飲んでくれよ」

 正明さんが言っているのは、低用量ピルのこと。女性ホルモンを配合した薬剤で、生理の回数を減らすことができ、月経困難症などの治療目的で使われることが多い。昔は身体に与える影響がいろいろと心配され、使用するハードルが高かったが、今ではかなりハードルが下がり、女性医師にも使用している人が増えているらしい。

 しかし、正明さんと志津さん夫婦は不妊治療を検討している最中だった。

「赤ちゃんができるチャンスが減るから飲みたくない」

「どうせできないじゃん」

 即座に、言い捨てるような返信があった。一度受けてもらった検査で、不妊の理由は正明さんではなく、自分にあることが分かっていた。

「ひどいよ。悪いのは私だって分かっている。でも、ひどいよ」

 返信し、志津さんは泣き崩れた。

 とはいえ、結果的に、離婚は回避された。正明さんも、さすがに言い過ぎたことを反省し、謝ったからだ。生理について話し合い、「生理中の志津さんのトリセツ」も2人で作成した。本来は仲のいい夫婦なのである。

 その後志津さんは、月経困難症治療のために、通院を開始した。

(医療ジャーナリスト 木原洋美)