社内では、「専務」ではなく「千春さん」

 社長は、職人としても経営者としても、実績に裏づけられたカリスマ性があるので、私のように間に入る人間がいたほうが、ワンマン経営に傾かないと思います。

 私は、現場のたたき上げではありませんから、社長と同じやり方で職人をまとめることはできません。

 けれど、社長が現場にいたときと違って、今は社内の組織化が進んでいますから、工場長などの力も借りながら、組織として社内をまとめていけたら、と思っています。

 今、私のことを「専務」と呼ぶ人はほとんどいません。「千春さん」ですね(笑)。
でも、それがいいと思っています。

「伝統産業に轍(わだち)をつける」

 という会社のスローガンを常に忘れないで、既成概念にとらわれずに新しいことにどんどんチャレンジしていく。

 そして、鋳物という伝統産業に新たな轍を描き続けていきたいですね。

 年間12万人が訪れる富山の本社工場の雰囲気を知りたい方は、第1回連載もご覧いただけたらと思います。

社内では「専務」ではなく「千春さん」!<br />カリスマ社長にさえ務まらない<br />「専務」の役割とは?能作克治(のうさく・かつじ) 株式会社能作 代表取締役社長
1958年、福井県生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒。大手新聞社のカメラマンを経て1984年、能作入社。未知なる鋳物現場で18年働く。2002年、株式会社能作代表取締役社長に就任。世界初の「錫100%」の鋳物製造を開始。2017年、13億円の売上のときに16億円を投資し本社屋を新設。2019年、年間12万人の見学者を記録。社長就任時と比較し、社員15倍、見学者数300倍、売上10倍、8年連続10%成長を、営業部なし、社員教育なしで達成。地域と共存共栄しながら利益を上げ続ける仕組みが話題となり、『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)など各種メディアで話題となる。これまで見たことがない世界初の錫100%の「曲がる食器」など、能作ならではの斬新な商品群が、大手百貨店や各界のデザイナーなどからも高く評価される。第1回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」審査委員会特別賞、第1回「三井ゴールデン匠賞」グランプリ、日本鋳造工学会 第1回Castings of the Yearなどを受賞。2016年、藍綬褒章受章。日本橋三越、パレスホテル東京、松屋銀座、コレド室町テラス、ジェイアール 名古屋タカシマヤ、阪急うめだ、大丸心斎橋、大丸神戸、福岡三越、博多阪急、マリエとやま、富山大和などに直営店(2019年9月現在)。1916年創業、従業員160名、国内13・海外3店舗(ニューヨーク、台湾、バンコク)。2019年9月、東京・日本橋に本社を除くと初の路面店(コレド室町テラス店、23坪)がオープン。新社屋は、日本サインデザイン大賞(経済産業大臣賞)、日本インテリアデザイナー協会AWARD大賞、Lighting Design Awards 2019 Workplace Project of the Year(イギリス)、DSA日本空間デザイン賞 銀賞(一般社団法人日本空間デザイン協会)、JCDデザインアワードBEST100(一般社団法人日本商環境デザイン協会)など数々のデザイン賞を受賞。デザイン業界からも注目を集めている。本書が初の著書。
【能作ホームページ】 www.nousaku.co.jp