claudio reyes/Agence France-Presse/Getty Images 破壊されたサンティアゴ市内のスーパー

 【アリカ(チリ)】チリ最北部の砂漠地帯、アリカにあるウォルマートの店舗は例年であれば、ホリデーシーズン向けのおもちゃや食品を買い求める客でにぎわっているはずだった。

 しかし、今週同店を訪れた際に目にしたのは、焼け焦げてねじ曲がった鉄骨や砕けたコンクリートなど、全国に広がった反政府暴動を物語る残骸だけだった。こうした暴動は、中南米で最も繁栄していた国の1つだったチリに、過去10年で最も深刻な経済の縮小をもたらした。近隣事業者の商売を支えていた同店舗は、2カ月間にわたった大規模抗議行動に絡んだ破壊や略奪行為の被害を受けた。

 この光景を目にしたセサル・マルチネス氏は「まるで戦場のようだ。30日前には、ここでパンが売られていた。狂気の沙汰だ」と語った。同氏の会社は、11月に略奪と放火の被害を受けたこの店の残骸処理を請け負っている。事件では死者も1人出た。

 人口1800万人のチリの経済が早期に回復すると予想する者はほとんどいない。暴動は同国経済をマヒ状態に陥らせ、10月の経済成長率はマイナス3.4%となった。これは2009年の世界金融危機以降では最悪の数字だ。中央銀行は、来年の成長率見通しを暴動以前に示した2.75~3.75%から0.5~1.5%に引き下げた。今年の国内生産の伸び率は、2018年の4%を下回り、わずか1%にとどまる見込みだ。

 クリスマスが近づくにつれ抗議行動は沈静化したが、専門家らによれば、経済への影響は始まったばかりだ。チリ政府が新憲法の必要性を問う国民投票を4月に実施すると約束したことを受け、同国は現在、政治的不透明感に包まれている。左派の活動家らは、同国の自由市場経済モデルを、彼らが望むような、より公平で、より社会保障が充実したものに改めるよう求めている。

Marcela Bruna for The Wall Street Journal セサル・マルチネス氏

 こうした状況は、中南米にあってこれまで安定を維持してきたチリでの事業計画に影響を及ぼしている。民間調査会社カデムの12月の調査によると、企業幹部の85%は投資計画を凍結している。また、リセッション(景気後退)や失業率上昇を懸念し、チリの今後の見通しに悲観的になっている企業幹部は全体の6割の上る。

 チリ税務当局の責任者だったリカルド・エスコバル氏は「これは社会的な津波だ。経済への打撃は、より永続的なものになるだろう」と指摘。「将来の見通しがはっきりするまで、人々は投資を見送るだろう」と語った。同氏は現在、首都サンティアゴで法律事務所を運営しており、事業経営者らを顧客としている。

 地下鉄運賃の引き上げをきっかけとして、10月18日にサンティアゴで大規模な抗議行動が発生したのが、今回の大混乱の始まりだった。抗議の対象は、乏しい年金から、医療や学校の粗末な状況に至るまで、さまざまな不満へと拡大した。政府は地下鉄運賃の引き上げを撤回。大半の抗議行動は平和的だったが、暴力的グループが大混乱を引き起こした。

 このため、セバスティアン・ピニェラ大統領は、サンティアゴで開催予定だったアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議をキャンセルした。会議が開催されていれば、ドナルド・トランプ米大統領をはじめ世界各国から多くの人が同地を訪れるはずだった。

 ホテルは放火され、レストランや地下鉄の駅は破壊された。近代的で効率的な地下鉄システムには3億7000万ドル(約403億円)の損害が生じた。壁の落書きには「怒りを結集させよ」と書かれていた。

 デモは瞬く間に全土に広がった。同国南部の景勝地であるパタゴニアでは、銀行や公共資産が破壊された。サンティアゴから2000キロほど離れた同国北端のアリカ市では、デモ隊が戦争の英雄らをたたえる彫刻の頭部を奪い取り、観光業が崩壊した。

claudio reyes/Agence France-Presse/Getty Images 破壊されたサンティアゴ市内のスーパー

 政府によると、過去2カ月間に同国全体で1万4800の事業が損害を受け、10万人の雇用が失われ、ビジネスと消費者信頼感が落ち込んだ。

 チリ商工会議所のマニュエル・メレロ会頭は「この影響から逃れた人はいない。何十億ドルもの損失が出ている」と話した。

 これを受け、中道右派の元実業家であるピニェラ大統領は、インフラ再建と中小企業支援を目的とした55億ドルの経済刺激策を発表した。支出増大により、2020年の財政赤字は対国内総生産(GDP)比4.4%にまで増えるとみられる。これは30年前の民政移管以降で最も高い水準だ。

 中央銀行はペソ相場が歴史的水準にまで下落したことを受け、ペソを支えるための為替介入を強化している。中銀によると、最大200億ドル規模のドル売りを行う可能性がある。

 それでもエコノミストらは、チリが回復に向けて強固な立場にあると述べる。同国には債務がほとんどなく、世界最大の産銅業も混乱の影響を受けていない。当局者は、年金の増額など、格差の是正につながる要求に応じようと努力している。

 ルカス・パラシオス経済相はウォール・ストリート・ジャーナルに対し、「チリをもっと公正な国にしようという社会的合意がある。10月18日に始まった危機を乗り越えるプロセスは実を結び始めている」と語った。

 経済刺激策は、ヘクター・ソトさん(33)のような人々の支援を目的としている。ソトさんがサンティアゴ南部で経営する薬局は略奪に遭った。事業は再開したものの、売り上げは通常の半分程度だという。「暴力行為はわれわれに傷跡を残した」とソトさんは語った。

 サンティアゴのシンクタンク「COES」の12月の世論調査では、回答者の65%が抗議活動の継続を支持していた。政治アナリストらによれば、抗議活動は弱まっているものの、4月に予定されている国民投票を控えた来年3月には再び熱を帯びるとみられている。国民投票では、ピノチェット軍政時代に制定された憲法を新たな憲法に改正すべきかどうかを問う。

 チリ経済の不透明感は、レストランに輸入酒類を販売するロドリゴ・ヘビアさん(27)の肩にも重くのしかかっている。事業への打撃が深刻だったため従業員を解雇しなければならなかった。ヘビアさんと妻は住宅の購入を見合わせ、子どもを持つことも見合わせている。

 「状況は何も明確になっておらず、われわれはもうしばらく様子見を続ける必要がある」とヘビアさんは述べた。「私のビジネスが来年1年を乗り切れるかどうか分からない」

 アリカでも人々は同様の不安を抱えていた。

 破壊されたウォルマートの近くで美容院を営むアレハンドラ・ゴドイさんは、ほとんど働いていないと語った。現在でも夜になると、金属やその他の価値あるものをあさる音が聞こえてくるという。「客はこの場所を恐れて来ようとしない」とゴドイさんは語った。

Marcela Bruna for The Wall Street Journal アレハンドラ・ゴドイさん
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