追い込まれる
文大統領

 しかし、文氏は日本との会談から成果を得られなかった。経済、政治、国際関係において文大統領が窮状の打開を見いだすことは一段と難しくなっている。さらに、韓国では次から次に不正などの疑惑が出てくることから“タマネギ男”と揶揄(やゆ)され、法相の任を解かれたチョ・グク氏に対して、検察が逮捕状を請求した。今後の展開によっては、文氏の最側近に捜査の手が及ぶ恐れもある。

 総選挙を控え、文氏は検察の捜査が政権の中枢に及び、世論の批判が高まる展開は何としても避けなければならない。世論の目線を海外にそらせようと、文氏は外交面でさまざまな策を仕掛けるとみられる。中朝は韓国を無視・軽視しており、対日政策の重要性は高まっている。目先、文政権は日本に低姿勢で接するなど懐柔策に転じる可能性がある。

 同時に、文氏の根底には反日姿勢がある。懐柔策をもってしても状況が変わらないのであれば、再度、文政権が日本を批判し、有権者の支持を得ようとするだろう。7月下旬、文氏が輸出手続きを厳格化した日本を強硬に批判して反日姿勢を明確化し、支持率が上向いたことは記憶に新しい。文氏が日本に対話を求めるとしても、それが同政権の対日戦略の転換を意味するとは考えられない。

 その間も、韓国経済は疲弊する恐れがある。

 サムスン電子が5G関連需要を取り込んで幾分か業績を立て直すことができたとしても、その他の企業、セクターに恩恵が広がるとは言いづらい。やや長めに考えると、経済の停滞懸念とともに社会全体に閉塞感が蔓延し、今以上に世論が大きく分かれてしまう展開も考えられる。このように考えると、総選挙を控え、文氏は非常に難しい局面を迎えている。

 日韓関係の改善がままならず、米国からも見放される状況が続く場合、韓国の保守派や経済界は本気で将来を憂慮し始めるはずだ。若年層などからも政権批判が増えるだろう。

 それは、日本が国際政治の常識に則って日韓関係の修復などを目指すきっかけとなる可能性がある。わが国としては、慎重かつ冷静に文政権の出方を見極めつつ、日韓関係の改善を目指すチャンスの到来を待てばよい。

(法政大学大学院教授 真壁昭夫)