「地球を歩く」という言葉の響き

ちきりん ところで、『地球の歩き方』というネーミングは、どなたがつくられたんですか?

石谷 詳しくはわかりませんが、もとは、旅行パンフレットのコピーが「歩こう! 地球」というタイトルだったと思います。「世界を歩こう」ではなくて、「地球を歩こう」。ですから、本にするときも、わりとすんなり『地球の歩き方』になったと記憶しています。

ちきりん 斬新で、いい名前ですよね。旅行者はいかにも自分がスゴイことをしている気になれる。「ああ、オレって今、地球を歩いているんだ!」っていう……(笑)。

石谷 そうですか、ありがとうございます。

ちきりん 素晴らしいと思います。それと、昔はたしか、「1日10ドル以内で旅行するためのガイドブック」とか書いてあって、「格安旅行のためのガイドブックですよ」ってことが明確に出ていましたよね。バックパッカーかどうかはともかく、「安く旅をする」というコンセプトが明確でした。それがいつからか消えて、わりとビジネスマンとかシニアの方も使えるようになりましたよね?

石谷 その記述をなくした当時は、日本人旅行者が増えて、この本を使う人が増えてきた頃です。じつはその頃に、よく編集部にも電話がかかってきて、「編集長を出せ!」って。

ちきりん え?

石谷 「『地球の歩き方』は堕落した」とか言われました。

ちきりん ははは。

石谷 『地球の歩き方』らしくないとか、「なんでパッケージツアーの本に落ちぶれたんだ!」とか(笑)。でも、そうではなくて、たとえばニューヨーク編ですと、当時300ページくらいだったのが、いまは500ページから600ページくらいになっているんです。要は情報が増えているので、高級ホテルもオプショナルツアーも高級レストランも載ってるけれども、格安ホテルとかお手軽な大衆食堂も載っているということなんです。

ちきりん そうだったんですね。でも「堕落した」って言いたい人の気持ちもわかります。バックパッカーには求道者みたいな人がいて、バックパッカー以外を旅人とは認めないようなタイプもいますから。ドミトリーじゃない、普通のホテルの1人部屋に泊まった段階で、「もうお前は堕落している。ダメだ」みたいな感じで(笑)。

石谷 たしかに、当初の対象としてはバックパッカーでしたけど、いまは、その国、その地域に行く人すべての人を対象に、という意識で編集しています。

ちきりん 市場に合わせて変わってきているんですね。

石谷 バックパッカーというより前に、まずはいろんな地域を個人旅行で歩いてほしいというのが前提の本ですから、そのためには、何にせよお金がかかったらダメじゃないですか。「こうやれば安く自由に行けます」っていうことを示さないと。でも、旅行者がどんどん増えてきて、いろんな人がこの本を使うようになってきて、さまざまな要望や問い合わせもきて、もっとわかりやすくしよう、もう少し工夫しようとやっていくなかで情報が増えてきていまの『地球の歩き方』になったんですね。

ちきりん 本として出された頃は、それこそ円相場が1ドル360円とか240円の時代で、相対的に日本の経済力がそれほど高くなかった時代ですから、「格安に」というのも並みの努力じゃできなかった。みんな、涙ぐましい努力をしてましたよね(笑)。