無料冊子からのスタート
ちきりん まず、その頃の『地球の歩き方』の歴史から教えていただけますか?
石谷 初めから『地球の歩き方』っていう本をつくろうと思ったわけではないんですよ。もともと当社は人材採用をやっていて、その傍ら学生に「もっと自由な旅をしてもらおう」という発想から無料で配っていた冊子があり、『地球の歩き方』はそこからスタートしました。その冊子がけっこう評判がよくて、「まあ、別会社とはいえ出版社の中にいるので、本にして出そうか」といった発想だったようです。
関西出身。バブル最盛期に証券会社で働く。その後、米国の大学院への留学を経て外資系企業に勤務。マネージャー職を務めたのちに早期リタイヤし、現在は「働かない生活」を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50ヵ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログ「Chikirinの日記」を開始。政治・経済からマネー・問題解決・世代論まで、幅広いテーマを独自の切り口で語り人気を博す。現在、月間150万以上のページビュー、日に2万以上のユニークユーザーを持つ、日本でもっとも多くの支持を得る個人ブロガーの1人。著書に『ゆるく考えよう』(イースト・プレス)、『自分のアタマで考えよう』(ダイヤモンド社)、『社会派ちきりんの世界を歩いて考えよう!』(大和書房)がある。
ちきりん 最初からちゃんとした本をシリーズとして出そうっていうことではなかったんですね。
石谷 ええ。海外旅行もパッケージツアーがほとんどで、格安航空券もまだ出始めたばかりの頃だったので。自由に旅行を! という意味での最初のツアーをやったのがたぶんダイヤモンド・ビッグ社ですね。
ちきりん 当時の学生向けツアーというと、企業内定者の研修旅行とか?
石谷 あの頃は売り手市場だったので。内定者拘束も大変でした。
ちきりん 他社の面接に行かせないために「だったら海外に行かしちゃえ!」って感じですか?
石谷 そういう面もありましたね。あと、1ヵ月くらいの卒業旅行というのもありましたよね。しかも海外経験になるからというので企業側も勧めていた。アメリカだと、チャーター便でニューヨークに着いて1泊目はレクチャーして、「1ヵ月後のロスのこのホテルにきてください」とか、ヨーロッパだとロンドンに着いて1日だけレクチャーして「1ヵ月後にパリのここに来てください」といった旅行だったんですね。
ちきりん それを企業さんに売り込んでいらしたんですか?
石谷 いえ、それは基本的には個人です。
ちきりん なるほど……もともとの会社の成り立ちは?
石谷 もともとは、人材採用系の会社だったんです。ダイヤモンド社から独立したダイヤモンド・ビッグ社で『ダイヤモンド就職ガイドリクルートブック』という本を出していました。それと平行して、就職活動する学生にダイレクトメール(DM)を送って「海外旅行に行きませんか?」と案内を始めました。企業向け研修はもともと語学研修からスタートしていましたけど、そういう研修だけではなくて、「若いうちにもっと海外を見ておいたほうがいいよ」っていう発想もあって、そこからスタートしたわけです。
ちきりん そういえばあの頃は、学生向けに企業の資料請求葉書がついた分厚い本がありましたね。ああいうDMを送るための名簿ですね?
石谷 ええ。就職活動する学生にDMを送って「海外旅行に行きませんか?」と案内をしていた。企業向け研修はもともと語学研修からスタートしていましたけど、そういう研修だけではなくて、「若いうちにもっと海外を見ておいたほうがいいよ」っていう発想もあって、そこからスタートしたわけです。
ちきりん すると、人材系の雑誌とかをつくっていた会社が、「学生だったら1ヵ月くらい海外で遊学してくるといい」と思って情報誌を作り始めたら、それが評判よくて本として独立させたら売れ始めた、という経緯なんですね。
石谷 まあ、そうですね。でも、学生にしてみたら、「1ヵ月自由にしろって言っても、宿や交通手段など、どうしたらいいの?」っていう部分がありますよね。
ちきりん わかんないですよね。初めてなら、とくに。
石谷 だったら、ホテルの取り方とかチケットの使い方とか、観光局はどこにあるのかなどを充実させる方向で、行った人たちから「ここはこうだった」とか「このホテルがよかった」とかの情報も集まり出した。それが『地球の歩き方』の口コミのもとになりました。そうした情報も次の冊子の改訂では載せていった。それがだんだんぶ厚くなってきたのが『地球の歩き方』です。