ソフトバンク投資先企業、世界で互いに競合の矛盾ソフトバンクの投資資金がメキシコ市の宅配アプリ3社のバトルを後押ししている Photo:Jake Naughton for The Wall Street Journal

 【メキシコ市】メキシコ市で人気のチュロス専門店「エル・モロ」は2年にわたり、チュロスやホットココアを市内全域に配達するのに米配車大手ウーバー・テクノロジーズの料理宅配アプリ「ウーバーイーツ」を使っていた。だが、2018年終盤にこの関係をほごにした。コロンビアの新興宅配アプリ「ラッピ」と独占契約を結んだためだ。

 「ラッピは非常に積極的な提案をしてきた」。エル・モロのサンチアゴ・イリアルテ最高経営責任者(CEO)はこう話す。ラッピは配達料金を注文金額の10%にすると申し出た。これに対し、ウーバーの料金は30%だった。

 ウーバーはラテンアメリカ(中南米およびメキシコ)の激しい価格競争に巻き込まれている。表向きのライバルはラッピと中国の配車サービス大手、滴滴出行(ディディチューシン)だ。だがその裏には意外な事情がある。当事者全ての最大出資者が、日本のソフトバンクグループなのだ。3社に計200億ドル(約2兆1800億円)を投じている。

 通常、新興企業投資家が競合する企業を共に支援することはない。だが世界最大のベンチャーキャピタル(VC)ファンドを運営するソフトバンクは、人気のハイテク分野に集中的に資金をつぎ込む。その結果、出資先企業がソフトバンクの資金を使って相互に攻撃し合う異例の状況が生まれている。輪になって一斉射撃を行っているようなものだ。

 3社ともに競争に勝つためにはどんな出費も惜しまない。元マネジャーらはその姿勢に当惑したと口をそろえる。3社のうち唯一決算を公表しているウーバーは、昨年9月までの12カ月間に83億ドル(約9000億円)の赤字を計上した。

 ソフトバンクを資金源とした競争は「割に合わない」とローワーケース・キャピタルの創業者クリス・サッカ氏は指摘。同社は早くからウーバーに出資している。「一人の投資家が直接競合する複数の企業に資金を注入して徹底的に戦わせるのは、単なる浪費だ」

 ソフトバンクはここ数年、10兆円規模のIT(情報技術)投資ファンド「ビジョンファンド」からハイテク業界に豊富な資金を注いできた。目下、第2のビジョンファンドの資金を準備する中で、成長重視から利益重視に方針転換を図っている。

 ソフトバンクの戦略に詳しい関係筋によると、同社の狙いは有望な新興企業を育てることで、出資企業の間で三つ巴の戦いを引き起こすことではない。ただ、ソフトバンク幹部の考えでは、中南米や東南アジアなどの新興国市場は手つかずの成長の可能性に満ちており、複数の勝者を支援することが長期的にみて賢明な場合もあるという。

 ソフトバンクの孫正義会長兼社長は2017年のビジョンファンド設立直後から巨額の投資を行ってきた。その1つがシェアオフィス大手のウィーワークだったが、これは完全に当てが外れた。

 孫氏が2つの重点分野とみるのは、配車(ライドシェア)と料理宅配サービスだ。ビジョンファンドは2018年初め、ウーバーに77億ドルを投資。今や同社の筆頭株主だ。またさまざまなファンドを通じ、ラッピに10億ドル、ディディに120億ドル近く出資している。