ニューヨーク証券取引所Photo:Reuters

――筆者のジェームズ・マッキントッシュはWSJ市場担当シニアコラムニスト

***

 中国を中心に感染が広がる新型コロナウイルスを巡り、投資家はしばし暗中模索していたが、ここに来て影響が見通せたと考えている。大ざっぱにまとめると次のような見方だ。中国向けサプライヤー、旅行および春節(旧正月)関連株は逆風に見舞われるが、市場全体への手痛い打撃は中央銀行の措置で相殺される。また、ウイルス感染は制御され、欧米のリセッション(景気後退)を引き起こすには至らないだろう――。

 感染した患者や多くの死者の親族や友人が悲痛な思いをすることは脇に置くとしても、この冷血漢のような分析が根拠とする仮説は、結局のところあやふやなものであることが露呈するかもしれない。中でも大きなリスクとなるのは、今回のウイルス感染は2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)とは異なるパターンをたどる恐れがあることだ。今のところ、SARS流行時の金融市場への影響がモデルとして広く使われている。

 新型コロナウイルスは昨年12月に中国内陸部の武漢で出現して以降、急速に感染が広がっている。これまでのところ中国以外での感染は少なく、症例は100件程度で、人から人への感染はあまりない。ただ米国務省は懸念を強め、中国本土への渡航中止を勧告している。

 投資家が示したのは一見、合理的な反応だ。人から人への感染が確認された1月20日以降、ETF(上場投資信託)のiシェアーズMSCIチャイナは11%下落。米航空セクターは7%、国際石油取引の指標油種であるブレント原油先物は13%それぞれ下落した。中国への依存度が高い台湾や韓国の株式相場はそれぞれドル建てで6%と9%落ち込んだ。これに対し、米国の主要株価指数であるS&P500種指数の下げは3%にとどまっている。

 国債利回りは大幅に低下している。投資家は米連邦準備制度理事会(FRB)が6月までに利下げする確率を60%織り込んでいる。人から人への感染が確認される前にはわずか15%だった。利回り低下はまたしても、米国株への影響を抑える緩衝材となっている。低金利の時には株が大幅高を演じるという、ここ10年ほどの先例がある。

 厄介なのは、こうした市場の反応の根底にある仮説だ。第一に、ウイルスの影響は短期的なものに終わると想定され、従って(ほとんど)気にかける必要はないとみられている。投資家は売上高への短期的な打撃より、長期の業績見通しをはるかに重視する。感染を理由に相次ぎ利益が下方修正されるだろうが、程なく正常化すると投資家は見込んでいる。

 残念ながら、それが真実かどうかは見当がつかない。症状がないうちからウイルスが感染したり、当初考えられていたより容易に感染したりすることが仮にあれば、中国以外でも急速に広がるかもしれない。

 第二に、中国以外の国では人々が冷静を保ち、政府や企業の予防的措置は大幅な混乱を引き起こさないと投資家は想定している。もし人々が普通の生活を続ける気にならなければ、経済にも株にも大きな打撃となる。信頼感は崩れやすく、予測困難だ。