「QEか? 非QEか? それが問題だ」――。米連邦準備制度理事会(FRB)は昨秋以降、市場への資金供給を増加させてきた。米国の多くの株式市場参加者は「これは新たなQE(量的緩和策)だから株の買い材料だ」と信じている。
ところがジェローム・パウエルFRB議長は、QEではないと何度も説明している。筆者も株式市場の見方は誤解であって、いずれ裏切られると懸念している。
では、なぜFRBは資金供給を拡大したのだろうか?
主因は、企業の資金調達や住宅ローンなどに幅広く利用されてきたロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の代替指標問題にある。
LIBORは2021年末に公表停止となるため、FRBを含む米金融当局は金融業界に新指標金利「担保付き翌日物資金調達金利(SOFR)」への早期移行を強く促してきた。SOFRは米国債レポ(買い戻し条件付き売却)の翌日物取引の金利を集計したものだ。
ところが、昨年9月17日の週にレポ金利は暴騰、一時10%に迫った。これはFRBで金融調節を担当するニューヨーク連邦準備銀行の痛恨のミスだった。バーゼルⅢなどの新金融規制で米国短期金融市場の資金の流れが悪化していることを同連銀はよくつかめていなかった。市場が暴れ始めたときの初期対応もまずかった。
背景には、18年6月に就任した同連銀のジョン・ウイリアムズ総裁と現場とのあつれきがあったのではないかと、うわさされている。学者肌の総裁と職人肌であるたたき上げのベテランたちは反りが合わず、人事面で混乱した。それが前述の問題につながったらしい。