長期化するとみられていた香港のデモが失速している。勢いを失ったデモではあるが、怒りは収まらない。その根底にあるのは生活苦だ。中国大陸の金持ちたちが香港の不動産を次々と買いあさり、価格を高騰させる一方、6畳間ほどの狭いスペースで家族3人での暮らしを強いられる生活者がいるというのが、今の香港の実情だ。(ジャーナリスト 姫田小夏)
長期化すると思いきや…
失速する香港のデモ
長期化するとみられていた香港のデモが失速している。2019年、「逃亡犯条例」に反対する運動から始まった民主化要求のための抗議運動だが、香港市民の関心はすでにここにはないようだ。
1月初旬に訪れた香港大学は、すっかり正常に戻っていた。女子大生のひとりは「普通に授業が行われていますよ」という。非常階段の白壁に「時代革命」と書かれた黒いスプレー書きこそ痛々しいが、目の前ではダンスサークルに所属していると思しき学生たちが、パフォーマンスの練習に興じていた。修士課程の学生は「積極的に参加したのは主に学部生でしたね」と話す。大学生の子を持つ母親は「娘は友達とデモに参加しましたが、友達の誘いは断りにくいという雰囲気がありました」と振り返る。
「あれほどの数を動員した香港のデモですが、すっかり腰砕けになっています」と話すのは、香港に27年にわたって在住する日本人・坂上健さん(仮名)だ。香港では、繰り返し行われてきたデモ活動の実況番組が放映されてきたが、最近、デモの規模はどんどん小さくなっているという。
ヤウマティ(油麻地)の貿易会社に勤務する香港人女性は、6月16日の大規模行進には参加したが、それきりだという。「デモ隊の破壊行為には賛同できない、やっていることは暴力団と同じだから」と話す。
バリケードを築いて火をつける、警察車両めがけてブロックを投げつける、地下鉄の券売機や改札を破壊する、店舗のシャッターを壊し、棚の商品を踏みつけにする…。そんな“過激派”の行為に冷めた視線を送る市民は少なくない。
だが、暴力にも理由がある、とする意見もある。「香港行政府に訴えても『検討する』『善処します』というだけ。不甲斐ない香港政府を覚醒させるには暴力に出るしかないという心情も理解できるのです」(日本に留学する香港人学生)。香港市民の中には「暴力行為は警察による自作自演だ」とする声もあった。