今年1月、中国内陸部の武漢市で発生した新型コロナウイルスの感染者が1人、南京市で公共交通機関を使って動き回った。その移動中、周囲の人々は感染性の高い病原菌にさらされた可能性がある。
中国当局は至る所に張り巡らしたデジタル監視機器を使い、この感染者が南京市の地下鉄に乗って移動した経路を分刻みで追跡することができた。
当局はその後、感染者の行動などの詳細をソーシャルメディアで公表。感染者が訪れたのと同時期に近辺にいた場合、住民は検査を受けるようにと呼び掛けた。
国家衛生健康委員会の専門家メンバー、李蘭娟氏は国営テレビのインタビューに応じ、「今の時代、誰の行動でもビッグデータで追跡することができる」と語った。
中国はかつてない規模の対策を講じ、急拡大するウイルス感染を追跡している。これまでに感染者数は2万人を超え、世界で少なくとも425人の死者が出ている。
取り組みを支えているのは近所の監視役や終業住宅の管理人だ。感染の中心地となっている湖北省を最近訪れたとみられる人々をチェックし、当局に報告している。
だが、こうした生身のウイルス追跡係には助っ人がある。20年近く前の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行以来となる大規模な公衆衛生上の危機に立ち向かう中、中国当局は通信会社や鉄道・航空会社から収集した情報をふるいにかけているのだ。
中国はここ数年、膨大なデジタル監視システムを構築し、顔認証やセキュリティーカメラ、ソーシャルメディア管理を通常の人間による監視と組み合わせてきた。社会秩序と共産党体制への脅威を特定して未然に防ぐことを主な目的とし、14億人の人口を監視する狙いだ。
国営メディアは当局がビッグデータによる追跡能力を感染抑止に活用していると称賛。テクノロジーの社会的恩恵を示す具体例だと報じた。