30年以上にわたって東大合格者数全国1位を誇る東京・開成学園。中学・高校の6年制(一部編入を除く)を敷く同校の中でも、50人以上が所属し、ひときわ大所帯となるのが鉄道研究部だ。歴史も大変長く、2019年で設立60周年を迎えている。「なぜ電車好きが賢いのか?」をテーマに、鉄道と勉強の因果関係を彼らのバックグラウンドからひもといてみた。(鉄道アナリスト 西上いつき)
全員に共通するのは
「幼少期からの興味の継続」
取材をさせてもらったのは、開成学園鉄道研究部の執行部メンバーでもある、松田くん、佐藤くん、中村くん、福田くんの4人。全員高校1年生だが、毎年9月に行われる文化祭をもって高校2年生が引退するので、今は彼ら1年生が部の中心の役割を担っている。
「鉄道研究部」というだけあって、電車好きであることは承知していたが、驚いたことに、4人に共通するのは皆が幼少期から電車に興味を持っていたということだ。小さい子どもが電車や乗り物が好きなことはよく知られており、最近では「子鉄」なる言葉も生まれているが、彼らも小さい頃から電車が大好きだった。それだけではなく、その興味を今もなお引き続き持っていることが大きな特徴だ。
模型チーフをつとめる福田くんは、「小さい頃から路線が好きで、路線について調べていると必然的に地理・地名に強くなりました。行ったことのないところでも路線図が浮かんできます。開成の受験時は国語・社会が得意科目となっており、その強さは鉄道に養ってもらいました」と語ってくれた。部長の佐藤くんは「幼少期から路線図を開いており、漢字や数字も身につけていました。電車に乗って全国を回ると、地理・歴史の授業などで出てくる地名に接することも多いです」と話す。それがきっかけとなり鉄道以外の書籍を読むことにもつながったともいう。
会計担当の松田くんは、小さい頃から「時刻表鉄」。理系に進学したいとのことだ。「この列車がこの駅を何分に通過する、といったことから数字・計算に強くなっていきました」。
また、豊田巧さん著の鉄道小説の人気シリーズ『電車で行こう!』も、鉄道を通した勉強への大きな助力となったそうで、鉄道への興味と勉強がリンクしているのだ。OBの中には、実際に鉄道の電気の仕組みが好きで部活で研究し、それが高じて工学系に進学した人もいるなど、部活で突き詰めたことを学問に昇華する例も少なくないという。
このように鉄道がきっかけで地理・数字・歴史などに興味を持ち、それが学校での勉強や受験、さらには大学の進路にまで影響している。鉄道趣味というのは身近なのに奥が深く、幼い頃から何かに熱中する力を身につけるにはうってつけなものなのかもしれない。
『電車が好きな子はかしこくなる』(交通新聞社)の著者でもある福山市立大学・弘田陽介准教授は、「好きこそものの上手なれと古くから言われますよね。近年、国際的に幼児教育・保育の世界では、子どものかしこさを認知スキル(情報を吸収し出力するスキル)と社会情動スキル(自己や他者とうまく関わっていくスキル)に分けて捉えていますが、鉄道での遊びを通して、認知スキルに関しても、社会情動スキルに関してものびのびと学ぶことができます」と話す。無理に教えられたことではなく、自分の好きなことであるからこそ子どもの知識は深くなっていくという。