新型コロナウイルスで中国人観光客が減少しているが、痛手を被っているのは日本だけではない。中国一極依存を深めているアジアの各地も例外ではないようだ。香港、マカオ、台湾のインバウンドは今、どうなっているのか。(ジャーナリスト 姫田小夏)
香港も「観光客ゼロ、収入ゼロ」
香港の街を象徴するのは、ビクトリアピークでも女人街でもない。今やどこに行ってもドラッグストアと宝飾品チェーンばかりが目につくが、これこそが中国人観光客誘致にのめり込んだ香港の現在の姿だ。中国人観光客が欲しがる商品と店づくりを追い求めた結果、香港の街はドラッグストア・コスメチェーンの「莎莎」「卓悦」、宝飾品チェーンの「周生生」「周大福」の商業看板に埋め尽くされてしまった。
観光客の8割を中国大陸に依存し続けてきた香港は今、「中国一極依存のリスク」に直面している。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、香港政府は大陸に直通する高速鉄道を止めるなど、大陸との往来を制限した結果、インバウンド事業者は「観光客ゼロ、収入ゼロ」に頭を抱えている。多くの観光バスの運転手が離職を余儀なくされているのも日本と同じだ。
振り返れば2019年、「逃亡犯条例」に反対する抗議デモは日を追うごとに過激になり、反中色を帯びるようになると、大陸からの観光客が激減した。2018年、香港には日本の6倍にのぼる5100万人の中国人観光客が訪れていたが、2019年は4377万人と、前年比で14%も減少した。
「ラーメン屋が立ち退かされ、入ってきたのは中国人客目当てのドラッグストア。家の周辺には10軒以上もあるが、こんな数は必要ない」(旺角在住の香港人)と、市民の反感を買いながらも、店舗を増やしたドラッグストアだが、その化粧品や薬の販売も落ち込んでいる。
2019年1月の時点で55億香港ドル(約770億円、1香港ドル=約14円)あった売り上げは、同年11月には25億香港ドル(約350億円)に半減、12月には30億香港ドル(約420億円)に回復したものの、その後の新型コロナの影響で2020年はさらに厳しい数字が予想される。宝飾店も振るわず、2013年に1200億香港ドル(約1兆6800万円)を販売して以来、2019年は最低水準の662億香港ドル(約9268億円)にまで落ち込んでしまった。
デモが過激化した昨年から、飲食店を中心に事業撤退も出始めていたが、「最近はテナント料を半額にしても借り手がつかない物件もあります」(香港の不動産業者)。
2003年、SARS禍で落ち込んだ香港経済は、大陸から観光客を送り込んでもらうことで息を吹き返したが、結果として大陸依存を強めた。今、香港政府が打ち出した経済対策は、市民1人当たり1万香港ドルの現金支給による内需振興だ。