国策となったインバウンド政策のもと、訪日観光客は年々増え続けている。特に中国からの観光客は圧倒的な数を占め、2018年は838万人の中国人が訪れた。量の拡大を急ぐ日本は、今後もさらに訪日観光客を積み増すだろう。だが、もしも大陸からの観光客が姿を消したら――? 筆者は“波”が去ったあとの台湾を訪れた。
大陸からの訪台旅行が始まったのは2008年のことだった。同年、政権の座に就いた国民党の馬英九総統は台中融和路線のもとで、大陸からの団体旅行や個人旅行を多く受け入れた。任期中の8年間で大陸客は増え続け、2015年には418万人に達した。このとき、台湾には143億米ドルの観光消費がもたらされたという。
しかし、2016年の総統選挙で民主進歩党が政権を奪還し、「一つの中国」原則を拒む蔡英文政権が発足するや、中国政府は団体旅行客の渡航を制限。蔡政権はそれに対抗するかのように、大陸からの団体旅行者に対しビザ発給を制限する措置に出た。
その結果、2015年をピークに2016年は351万人、2017年は273万人、2018年は269万人と、訪台大陸客は減少の一途をたどり、台湾の観光関連業界は大きな落ち込みを余儀なくされているのである。
観光客がいない観光地
筆者は今春、台湾第三の都市である高雄市を訪れた。台北駅から高速鉄道(新幹線)でわずか1時間半、終点駅である左営駅では客待ちのタクシーが長い列を作っていた。その先頭車両の運転手に近づき、高雄の観光スポットである「蓮池潭に向かってほしい」と頼んだ。
ようやく現れた客だったのだろう。運転手は素早くクルマに乗り込んでアクセルを踏んだ。そして交差点の信号で止まると、おもむろにこんな話をした。
「旅行客が多かったときは、佐営駅と蓮池潭を一日何度も往復したもんだよ」
この運転手によれば、大陸から観光客が来なくなったおかげで「商売あがったり」だというのだ。