「教育虐待」をする親にならないために
――一方で「子どもを良い学校に入れたい」という親心から、教育虐待に陥ってしまうケースがあります。進学校出身で東大合格を果たしたお二人は、どんな教育を受けましたか?
ときど 僕も小さい頃(中学受験時代)はよく親から「勉強しなさい」って言われてたなあ。中学に入ってからは放任でした。でも、高校三年生のときに心臓が締め付けられるように痛くなったことがあって。当時は体調不良だと思い込んでいたけど、今思えば大学受験のストレスだったなあと。それくらい、「勉強しなきゃ」という気持ちに、追い詰められていたんだと思います。
――親御さんはどんな対応をしてくれましたか。
ときど 精密検査を受けに病院に連れて行ってくれました。そこで異常がなかったから、精神科でカウンセリングを受けさせてもらいましたね。僕、親に恨みを持ったことはまったくないんです。幼少期、父と一緒に四苦八苦しながら問題を解いた思い出が、純粋に楽しい記憶になってるんですよね。親が僕に「一方的に」押し付けていたら、こんなに勉強を続けられなかったと思います。
藤原 首都圏における中学受験の状況は、明らかに異常になっていますよ。お受験に成功するには「子どもと勉強を並走する母親の学力9割、父親の経済力10割」と業界で言われてるんです。成果も出やすいから、子どもと親が共依存関係になってしまう。「もっと勉強しなさい!」と、追い詰めてしまうケースも多いです。
中学受験はやってもいいけど、その後、親が子どもをどこかで切り離すことが必要ですよ。でないと、受かっても「母親なしでは生きられない人」が出来ちゃう。親があれやこれやと世話を焼いて、より心地いい方に条件を整えてしまうから、男の子が男になれない。その条件を勝ち取るゲームで、揉まれながら戦う必要がなくなっちゃうからです。「いい学校に入って、東大に入って、大手企業や官僚に」という育成ゲームみたいになってしまってますよね。
裕福な家庭なら、たしかにレールに乗せちゃった方が楽なのよ。でも「最終的に子どもが違う道を選ぶ」可能性もきちんと考えておかないとね。
ときど 僕が就職せずにプロゲーマーの道を選ぶと決めたとき、同級生からは止められました。でも、両親からは「お前は東大まで行けたんだから、どの道を選んでも大丈夫」と背中を押してもらえましたね。両親が自分の選択を肯定してくれたことが、今でも支えになっています。
藤原 千代田区立麹町中学校の工藤勇一校長先生が、著書の中で、ご自身の子育てについて触れてるんだけど、なかなか内容がある。子どもって、よく転ぶでしょ? そのとき、たいていの親は真っ青な顔してすぐに駆け寄るわけ。それを見た子は「大変なことした」って思っちゃうんだって。
ときど 「転ぶ=失敗」として学習してしまうんですね。
藤原 そう。以後は、なるべく転ばないように自分の行動に制限をかけてしまう。だから、工藤先生は子どもが転んでも、ニコニコして見守ってるんですって。すると子どもは「親が笑顔で見守っているということは、転ぶことは大したことじゃない、失敗じゃない」と思えるんだそうです。
ときど すごいなあ。僕も人生においては「本当の失敗なんてない」と思っています。試行錯誤しながら、次の成功を生み出す。そのためのプロセスがあるだけ。だからこそ、負けた試合から気づかされることがたくさんあります。
藤原 親も経験したことがない世界が、これからやってくるじゃない? ロボットやAIに置き換わる仕事もある。東大まで行ったところで、自動的に幸せを掴める時代ではないんだよ。「いい子になって、いい大学に入れば、幸せに人生を全うできる」という信仰はもうそろそろやめたほうがいい。親の側が「改宗」することが求められていると思います。