置かれた場所で咲けなくてもいい

 APUは世界中から学生を集めていますから、APUのビジョンは簡単で、卒業したら世界中に散っていってほしいということ。

 これは、外国人だけではなく、日本人でも同じです。
 世界は広いので、置かれた場所で咲けなくてもいいと考えているのです。

 もちろん、ご縁があってどこかに入るわけですから、せっかくその場所に置かれたのですから咲けるようにがんばってほしいのですが、がんばっても咲けないなら、世界は広いから、どんどんチェンジして出ていけばいいのです。

 だから、転職を奨励しています。
 一生自分探しをするほうが、人間としては成長するし、人生が楽しい。

 だから、APUが育てたい学生は、広い世界に散っていって、自分の持ち場をどこかで見つけて、そこでAPUで学んだことを活かし、行動して、ちょっとでもいいから世界を変えてほしい。

 一言でいえば、チェンジメーカーです。

 評論家はいらない。
 自分で行動して、世界を変える人になってほしい。

 これがAPUのビジョンです。そんな子どもたちをたくさん育てたいですね。

 まだ開学20年ですが、すでに2万人くらいの卒業生がいます。
 そのうち1万人以上が海外にいます。

 世界中に36の同窓会の支部がある。
 でも、日本にはたった10の支部しかない。26は海外です。

 この前、ドバイの支部に行ってきたら、オマーンから飛行機で飛んできてくれた卒業生がいました。

 彼女はオマーンで一番の売れっ子のニュースキャスターですが、2時間くらい話して、「夕方のテレビに出なければいけない」とまた飛行機で帰っていきました。

 こんな学生の活躍を見ていると、本当にうれしくなりますね。

 それから、APUは九州・別府の山の上にあります。
 九州がさびれてしまうと、APUも元気でいられるはずがない。
 僕は「民・官・学のリンケージ」といっていますが、APUが中心となって、九州の企業や自治体とコラボしながら、互いに刺激しあって九州を元気にしたい。

 自分が住んでいる九州すら元気にできない大学が、世界を変えられるはずがない。

 イスラム圏の学生も山ほどいます。
 彼らは日本にきて、九州の刺身がおいしいと感じます。
 すると、彼らは、お父さん、お母さんに、おいしい魚や寿司を大分にきたら食べさせたいと思うわけです。
 ところが、しょうゆがなかったら、刺身は食べられませんよね。
 でも、日本のしょうゆはアルコールを使っているので、イスラム教徒は食べられない。

 そこに課題を発見したAPUの学生が、フンドーキン醤油(1861年創業)と共同開発プロジェクトを立ち上げて、ハラール認証取得「はちみつ醤油」というコラボ商品をつくりました。

 こういったいろんな取組みを通じて、地域と大学が企業や役所を通じてどんどんコラボしていくのです。

 去年は、有田焼の有田町とAPUで友好交流協定を結びました。
 有田町は小さい町ですが、人間国宝が2人も住んでおられます。

 ところが、有田焼の売上高はピーク時に比べ半分以下。
 若い人が晩酌しなくなったので、おちょこがなかなか売れないわけです。
 有田町が栄えるには、外国に売るしかない。
 ただ、さすがの人間国宝であっても、マレーシア人がどんな色のどんな食器が好きかなんてわからない。
 だから、APUの学生とコラボし、有田町を元気にしようというプロジェクトが始まりました。学生たちは日本の伝統工芸の有田焼を教えてもらえるということで、ワクワクしています。
 僕は、自分たちの住んでいる地域を元気にできない大学は、存在する意味がないとすら思っているのです。

質問者 素敵なお話、ありがとうございました。

出口 過去の僕の『哲学と宗教全史』全連載は「連載バックナンバー」にありますので、ぜひご覧いただき、楽しんでいただけたらと思います。