仕組みが優れているために
個人が思考停止する大企業のジレンマ

 危機感ばかりだと人間は疲れてしまいますが、それでもある程度の危機感を持っていない人は危ないです。最悪の事態を迎えてからようやく、自分の置かれた状況に気付くことになるからです。

 最悪の事態に達するはるか手前で危機感を持ちながら、自分のスキルや知識をアップデートしたり、仕事やキャリアの新しいチャレンジをしたりすることができるかどうか。一度奈落に落ちてしまうと、はい上がってくるのは大変です。

 とはいえ難しいのは、大企業にはあまり個人が危機感を持たずに済む構造が内在していることです。多くの大企業では利益を生み出すビジネスモデルが構築されていて、あるいは高度なレベルで業務が標準化されていて、その歯車の一つとなって一生懸命働けば成果が出る仕組みになっています。

 見方を変えれば個人があまり考えなくてよい、思考停止しやすい仕組みといえます。

 私もリクルート時代、上司にいろいろ意見すると「お前は何も考えなくていいから、言われたことをしっかりやれ」という趣旨の話を、表現を変えて何度も言われました。

 しかしリクルート事件が発生して業績が悪化し、いままで通りのやり方ではうまくいかなくなった途端、「どうすればよいか、よく考えろ」と言われ出しました。「いや、今まで考えるなって言っていたでしょう」と思ったことをよく覚えています。

 その状況からリクルートはうまく脱皮しましたが、仕組みが崩れた途端、考える必要が出てきます。しかしずっと考えてこなかった人がいきなり考えろと言われても、非常に難しいものです。

 組織は仕組みで動いており、ヒューマンエラーが起こらないようにしておくことがマネジメントの大事な役割ですが、仕組みの完成度が高いほど個人の思考が不要になるというジレンマがあります。組織の在り方としては個人の自由度を高くして、そこに横串を指すやり方もありますが、大きな組織はそうでないところが多いです。

 このジレンマは個人にとってリスクです。給与が上がり組織の機能としての自分の値段が高くなるほど、リスクの度合いは高くなるという危機感を持っておくべきです。

(株式会社クライス・アンド・カンパニー代表取締役 丸山貴宏)