弁護士として、大阪府知事として、大阪市長として、これまで数えきれないほどの交渉をしてきた、橋下徹氏。橋下氏は、いかにして百戦錬磨の年上の企業人や役人を説得し、成し遂げたい目標を達成してきたのか。橋下氏の最新刊『交渉力 結果が変わる伝え方・考え方』から一部を抜粋して、いかに役人とのバトルを制したのか、その交渉力を紹介する。
役人たちが仕掛けてくる「ヘロヘロ作戦」
僕が知事・市長に就任した直後から、職員と要素に分解した協議をスムーズに行うことができたわけではない。これはある種のノウハウを両者が持たなければならないので時間がかかる。
それまでの間は、僕は自分の考えを押し通そうとするし、職員のほうも自分たちの考えを押し通そうとする。
そこで職員たちは、自分たちの考え方を僕に説明し、僕を納得させようとする。協議ではなく、納得させようとするのだ。ただし、彼ら彼女らの説明のやり方は普通の手法ではない。こちらが疲労困憊して最後は根負けして了承するまで、入れ替わり立ち替わり説明に来るやり方だ(笑)。
人呼んで「ヘロヘロ作戦」。
役所の各部局には何百人もの職員が所属しており、一案件に数十人が携わっている。その職員たちが、僕が了承すると言うまで、入れ替わり立ち替わり分厚い資料を持って説明に来る。彼ら彼女らの話をいきなり撥(は)ね付けると、組織は動かなくなるので、話はきちんと聞くが、僕は了承しない。おかしいと感じたところは「これは、違うんじゃないですか」「それについては、僕はこう考えています」ということを伝える。だから次から次へと説明しに来る。
それが何時間も続くと、こちらは疲労困憊してくる。まさに職員たちはそれを狙っている(笑)。吉村洋文・現大阪府知事や松井一郎・現大阪市長も同じ経験をしているようだ。
2015年12月に僕が市長を辞めて、後任として吉村さんが選挙に勝って市長に就いたが、当選直後から市役所の職員が代わる代わる分厚い資料を持って、案件の説明に来たそうだ。夜中までそうした説明が延々と続いて、吉村さんも疲労してヘロヘロになったという。そんな状況で、吉村さんは、夢洲(ゆめしま)という埋立地を物流倉庫会社に売却する案件の了承を求められた。
その当時すでに、大阪にカジノを誘致しようという方針を掲げていたが、まだIR法(カジノ法)はできておらず、夢洲を物流拠点にする従来の案が活きていた。僕が市長を辞める間際に、埋立地の売却担当部局から、一部を物流倉庫会社に売却することの了承を求められ、僕は了承していた。