当地の救急車はサイレンの使用をやめた。地元住民の恐怖心をあおることになるだけだからだ。いずれにしろ、イタリア全土の封鎖で道路には他に車はほとんど走っていない。新型コロナウイルスの感染拡大が続くこの繁栄した都市では、救急車のほとんどは聖ヨハネ23世病院に向かう。現代的な医療設備が整った大規模な施設だ。そこには、深刻な呼吸困難に陥った新型コロナウイルス感染症「Covid-19」の患者全員に挿管できるだけの十分な人工呼吸器はない。医師によると、集中治療室(ICU)では70歳以上の患者はほぼ受け入れていない。通常は使用されていない病院内の区域は重篤な患者と「シュー」という酸素音であふれている。患者は不安げな、あるいは疲れた表情で静かに横たわっている。病室はほぼ仕切りのない状態で、部屋の他の人たちからもその様子が見える。各自が必死に呼吸しようともがいている。密閉式の酸素ヘルメットをかぶった患者もいる。まるで透明のバケツを首にテープで留めてあるかのようだ。