本社から完全に独立した
「出島」組織を改革の推進役に

 既存の組織への悪影響を最小限におさえつつデジタルトランスフォーメーションを進めるために有効なのが「出島」だ。これは、子会社や別組織をイノベーションのハブとして設立し、そこから吸収できるものを本社が吸収していくというやり方だ。

 重要なのは、その子会社や別組織が、本社とは全く異なるガバナンス体制で運営できるようにすることだ。たとえば本社とは異なる場所にオフィスを設置する、特有の社内規定やカルチャーを創る、独自に採用を行うなどである。「出島」で採用した人材が、将来の本社の変革の旗手となる可能性もある。

 子会社・別組織のトップは本社からの短期間の出向ではなく、外部採用あるいは「片道切符」の転籍者が就くのが望ましい。子会社であれば、生株やストックオプションを持たせるという方法もあるだろう。採用の際、「是非うちに入社してほしい。大企業の変革を行う大規模でやりがいのある仕事だ。ただし自分は任期が終わる来年には本社に帰任すると思うが」といったことでは優れた人材を惹きつけるのは難しい。

「出島」は、予期せぬ環境変化においても強さを発揮する。たとえば今回のコロナ危機において、本社のコアの部分が機能不全に陥ってしまっても、本社と異なるガバナンスを持つ出島はリモートワークを導入済みだったり、デジタルツールの活用やアジャイルな体制の確保において先行していたりするケースが多い。出島がいち早く変化に対応し、本社のコアな機能の変革を推し進める姿を私はいくつも目の当たりにした。

 BCGDVでは、大企業との取り組みを通じてこのような「出島」を多数設立してきた。約半分はジョイントベンチャーという形式であり、BCGDVも出資している。そしてCEO、COO、CTO(Chief Technology Officer)という要職は当組織からの片道切符、つまり転職で輩出するケースが多い。彼らは皆、新たな挑戦を強く希望し、自ら率先してやりたいと手を挙げてくれる。貴重な人材を送り出すことは、組織としてもちろん痛い部分もある。しかしながら、本人の職業選択の自由の観点から、またこれこそがBCGDVのバリュー・ミッションだとも考えているので、彼らの背中を押すことができる。

 BCGDVもまた、BCGにとっての出島そのものである。BCGでは当時、エンジニアやデザイナーといった職種のタレントを採用したり育成したりすることが困難だった背景もあり、完全独立の別組織を設立し、近い将来必須となるであろうデジタルケイパビリティを持つタレントを集めた。BCG本体の東京オフィスは日本橋、BCGDVは恵比寿にある(執筆時点ではいずれもリモート勤務をしており、アフターコロナの世界では、そもそものオフィスのあり方から大きく変わることと思う)。意思決定・採用・給与体系もすべて別々だ。そしてプロジェクトでの連携を通じて、BCGはうまく吸収できる所を吸収し、急速にデジタルトランスフォーメーションを進めている。

 再び手前味噌で恐縮だが、ここ数年の変化には実に驚かされるレベルだ。BCGDVは今やグローバルで1000人以上のタレント集団となり、BCG全体のデジタル人材も数千人に拡大している。まだまだ未整備な部分もあり、終わりなきジャーニーではあるが、私はDXの事例としてBCGもまた好例の一つだと確信している。

 このように、変革の大きな根幹は「ヒト」「組織」にまつわるものであると私は考えている。コロナ危機への対応を、受け身ではなく「全社規模のプロジェクト」ととらえ、従来型の年功序列や終身雇用からの脱却をも辞さない、組織人事制度、そして働き方の抜本的な改革に取り組むことができれば、この危機を変革の契機に変えることができるだろう。

(第3回に続く)