また、同じころ、タイ保険委員会事務局から寄せられた報告に、プラユット首相は愕然としていた。

 新型コロナウイルスの治療向けに2月下旬から一斉に販売の始まった新型医療保険。バンコク生命保険やバンコク損害保険、米AIA保険、日本の東京海上など大手保険会社約10社が新商品の提供を開始したところ、わずか10日余りの間に数十万件に上る保険契約が発生し、国民の関心の高さを裏付けた。だが、話はそれだけでは収まらず、思わぬ方向へと展開を見せる。

 契約者の中には、保険金欲しさに1人で8~10社の保険に加入。わざわざ人混みに出向いてウイルスに感染してみせる猛者も現れた。「若者は感染しても発症しにくく、重篤化もしにくい」という情報をうのみにしての“犯行”だった。

 ある若者のケースでは、支払った保険料は約5000バーツ(約1万7000円)。受け取った一時金は最大で80万バーツ(約270万円)を超えた。仕事もなくなり、割の良いアルバイトと映ったに違いないが、自己がクラスター源となって社会に与える影響までは発想が及ばなかったようだ。

 保険委員会事務局では、保険会社に対し支払基準を厳格化するよう指示。一部保険会社は保険金の支払停止も決めた。今後、本当に必要とする人に影響が出かねないと危惧する声も出始めている。

政府対応のまずさが
感染拡大の一因

 中国武漢を発症源に、1月半ばより猛威を振るい始めた新型コロナウイルス。タイ国内で感染による死者が初めて出たのは2月29日のこと。この間、タイ政府の対応は常に後手後手だった。3月18日になってようやく人が集まる学校などの教育機関やスポーツ施設、映画館やマッサージ店などの娯楽施設を一斉閉鎖。3月22日には持ち帰りや宅配を除く飲食店や商業モールの全店営業停止を指示したが、この時点ですでに潜在的感染者は多数いたものとみられている。

日本人も多く暮らすバンコクのスクンビット・ソイ33/1
日本人も多く暮らすバンコクのスクンビット・ソイ33/1。いつもは買い物客らでごった返しているが人はまばらだ(3月23日、小堀撮影)