ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
インキュベーションの虚と実

コミュニティづくりはインキュベーションの原点
鯖江の首長、チャンピオン、エコシステムに学ぶ

本荘修二 [新事業コンサルタント]
【第9回】 2012年8月20日
著者・コラム紹介バックナンバー
previous page
5
nextpage

 本コンテストも、チャンピオンとそれを支えるエコシステムが鍵となっている。この種のプロジェクトは続かないことが多いが、すでに第5回(9月8~10日開催)を迎え、他の地域から注目されている。その裏には、チャンピオンの竹部美樹氏と彼女を支える鯖江市の方々の尽力があるのだ。本コンテストは、テーマが面白いだけでなく、鯖江市が提案をどう検討し、取り組むか等を伝えるといった後フォローもされ、参加した学生の感激の声も聞かれる。

 ともすると、この種のコンテストでは、地元である鯖江出身の学生を優先的に支援すべきという意見も出るだろうが、そういう短絡思考でなく、差別なく全国から広く学生の提案を受け入れることで、イベントの質やエネルギーも上がり、また本イベントを通して首都圏の学生とつながった地元の学生の就職へのプラスも生まれている。大学がないことが、目前発想からの脱却へと導き、さらにチャンピオンらがオープンなエコシステムを目指しているがゆえの成功だ。

 このように、チャンピオンと開かれたエコシステムが、地域の元気化には大切なのだ。

首長、チャンピオン、エコシステムの三点セット

「電脳メガネサミット」後の懇親会にて、東京からの(右)ザワット原田大作社長のプレゼンを覗き込む(左)牧野百男・鯖江市長、jig.jp福野泰介社長ら Photo by S.H.

 鯖江のチャンピオンやイベント参加者たちに鯖江が元気な理由を問うと、異口同音に「牧野市長!」とかえってくる。

 もちろん市長一人で何から何までやっているわけではなく、チャンピオンたちとエコシステムがあるがゆえの地域の元気だが、市長が鍵であることは間違いない。外から来た人は、ほぼ例外なく「あんな市長がいるんだね、すばらしい!」と言う。気さくでオープンな人柄をはじめ、えっと驚くようなアイデアも受け止めて機会を与えるインキュベーション・マインド、自らもブログやFacebookで情報発信やコミュニケーションに取り組む自分ゴト化は、特筆すべき点だ。だから市長の問題意識をエコシステム全体が理解しているし、チャンピオンたちはますます積極的に提案し活動する。

 だから鯖江市は、情報都市宣言、データシティ鯖江(オープンガバメント)、市民主役条例など、先駆的な取り組みを進めている。学生との連携による漆の里活性化を試みる河和田アートキャンプ(第6回は9月1~9日発表)という全国の学生が集まるイベントもユニークだ。これらもコミュニティの強さが支えている。

 筆者が何度か訪問しイベントに協力・参加した八戸も、小林眞市長のリーダーシップとチャンピオンが、外の力と相まって地域の元気化を進めている。中でも八戸大学大谷真樹学長(市場調査ベンチャーのヤフーバリューインサイト株式会社〈現株式会社マクロミル〉創業者)は、地域のチャンピオンや元気な若者、外部のオモロイ人をつないでエコシステムをつくっている。

 いずれも、首長、チャンピオン、エコシステムの三点セットが元気の源泉だ。

previous page
5
nextpage
IT&ビジネス
クチコミ・コメント

facebookもチェック

本荘修二

新事業を中心に、日米の大企業・ベンチャー・投資家等のアドバイザーを務める。多摩大学(MBA)客員教授。Net Service Ventures、500 Startups、Founder Institute、始動Next Innovator、福岡県他の起業家メンター。BCG東京、米CSC、CSK/セガ・グループ大川会長付、投資育成会社General Atlantic日本代表などを経て、現在に至る。「エコシステム・マーケティング」など著書多数。訳書に『ザッポス伝説』(ダイヤモンド社))、連載に「インキュベーションの虚と実」「垣根を超える力」などがある。


インキュベーションの虚と実

今、アメリカでは“スタートアップ”と呼ばれる、ベンチャー企業が次々と生まれている。なぜなら、そうした勢いある起業家たちを育てる土壌が整っており、インキュベーターも多く、なにより、チャレンジを支援する仕組みが存在するからだ。一方の日本はどうなのだろうか。日米のベンチャー界の環境の変化や最新のトレンドについて、25年にわたってベンチャー界に身を置いてきた本荘修二氏が解説する。また日本でベンチャーが育ちにくいと言われる背景を明らかにし、改善するための処方箋も提示する。

「インキュベーションの虚と実」

⇒バックナンバー一覧