「満を持して」という表現が今の日本の大方の声なのだろう。4月7日発令された緊急事態宣言。安倍首相は「欧米のような都市封鎖(ロックダウン)にはならない」と強調し、国民に冷静な行動と協力を呼びかけた。だが、街では若者を中心に「守らなくても罰せられないんだろう」といった冷めた見方が広がり、不安が拭えない。気になるのは強制力なき緊急事態宣言の行方だ。先んじて発令された他国では何が起きたのか。3月26日から非常事態宣言下に突入した東南アジア・タイでは、違反者には厳しい罰則規定が盛り込まれながらも、目を覆いたくなるような信じがたいケースが相次いでいる。(在バンコクジャーナリスト 小堀晋一)
プーケットでは
薬物で逮捕者が続出
タイ最大の観光県プーケット。ここで陸海空全ての交通路が遮断されたのは3月29日。翌月4日からは飲食店や娯楽施設に加え島内にある全てのホテルも閉鎖され、人と人との接触は表向き、完全に封じられた。夜間の外出はバンコクよりも厳しく、午後8時から午前3時まで禁止とされている。
収束を見ない新型コロナウイルスの感染者。4月7日現在、タイ全土の感染者数2258人のうち首位はバンコク都の1012人。プーケット県はバンコクに隣接するノンタブリー県に続く第3位で、131人(うち死亡者は1人)の感染が確認されている。
プーケット県で最も特徴的なのは、国際的な観光地という理由から、他の都県に比べて外国人が突出していることだ。中でも、ロシアや中央アジアのカザフスタンといった旧ソビエト連邦の国々や、ヨーロッパの人々が群を抜けて多い。一方、昨今まで多くの観光客を占めてきた中国は、当地でのコロナ騒動以前にすでに帰国してしまっている。
最大の感染源は、島内最大の繁華街がある西海岸パトン地区のバングラ通り。感染の拡大を受け、県の衛生当局者は当該地区への立ち入りを規制し、徹底した消毒を実施。警察は検問も実施して、人の移動を制限している。
ところが、一向に減らないのがこうした監視の目をかいくぐって、余暇や快楽を求める人々だ。
地元警察は4月1日、パトン地区の住民からの通報を受け、高級住宅街の住宅を急襲。屋上で大音量の音楽を流し、酒と違法薬物に興じていた男女14人を逮捕した。男はイギリス人やウクライナ人など5人、他はタイ人女性5人。コカインとマリファナも押収された。
数日後にも同様に、フランス人男女7人のグループが逮捕されている。メンバーらはパトン地区に隣接する民家で、麻薬類似成分が含まれた水たばこを集団で吸引。大声で酔っていたところ、お縄となった。この事件も、騒ぎを聞きつけた近隣住民からの通報で発覚した。フランス人をめぐっては7日にも、別の男女計9人が同じ水たばこでプーケットの警察に逮捕されている。