「終わっちゃ駄目です」「質問に答えてください」――。
3月14日の安倍晋三首相の記者会見。まだ多くの記者の挙手が続く最中、司会の長谷川栄一・内閣広報官が会見を打ち切ろうとした。その瞬間、複数の記者が声を上げ、会見場は騒然となった。首相会見の在り方が問われ、メディア不信が広がるなかで起きた今回の出来事。政治取材の現場でいったい何が起きたのか。
米軍基地建設をめぐる「政府の暴走」や、米軍機墜落現場でのメディアと米軍の対峙を描いた『ルポ沖縄 国家の暴力 米軍新基地建設と「高江165日」の真実』(朝日文庫)。その著者で、当日の首相記者会見にも参加していた沖縄タイムス編集委員・阿部岳がリポートする。
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天井が高い。記者席は密集している。初めて入った首相官邸の記者会見室は、ゆとりがあるようなないような、独特な空間だった。
3月14日夕、安倍晋三首相の会見が始まる45分前。まだ人もまばらな記者席を見渡す。前から2列目までは内閣記者会(官邸記者クラブ)の常駐19社の指定席になっている。
一方、フリーランスやネットメディアの記者は後方の1カ所に固められる。ジャーナリストの神保哲生さんは「ここに座るでしょ? そうすると官邸職員が名前を聞きに来て、司会に紙で渡す。間違って指名しないようになっている」と苦笑いした。安倍政権下の7年間、参加が認められる首相会見には参加し続けてきたが、1度も指名されていないという。
私が勤める沖縄タイムスは官邸記者クラブに加盟するが、常駐はしていない。席は常駐とフリーの中間なら、どこでもいい。気押される思いを振り払って前から3列目、質問者を指名する司会の正面に陣取ることにした。ここなら手を挙げているのがはっきり分かるだろう。
安倍首相がこれから使う演台には職員の男性が立ち、マイクのテストに協力している。
「いかがですか、いかがですか? いんちき総理です」
おどける男性は、確かに首相ではない。ただ、前回2月29日の会見は、この男性でも誰でも、十分務まる内容だった。