Joe Raedle/Getty Images 米フロリダ州フォートローダーデールに停泊する石油タンカー(4月21日)。この前日、米原油先物が史上初のマイナス価格をつけた

 世界で最も重要な資源の価格が今週、史上初めてゼロを割り込んだ。多くの人の頭にはこんな疑問が浮かんだはずだ。原油市場は実際どのような仕組みになっているのか?

 以下にQA形式で解説しよう。

highlight type=BOLD原油市場とは何か?/highlight原油市場とは何か?

 原油には2つの主要な市場がある。現物取引と先物取引だ。両者は別個のものだが、緊密な相関関係がある。経済的ストレスがかかると、時として両者の関係が崩れることがある。そうした変調が、今週生じた前代未聞の事態に一定の役割を果たした。

 現物市場は、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコや米石油メジャー、エクソンモービルのような産油会社から始まる。産油会社は地中から原油をくみ上げ、ホリーフロンティア(本社・テキサス州ダラス)のような石油精製会社に販売する。石油精製会社はガソリンやジェット燃料のような石油製品に加工する。さらに主にスイスにあるトラフィグラのような少数の資源商社を仲介者として、船舶や鉄道車両、パイプライン、トラック、バレル(42ガロン入りのたる)などで世界中に運ばれる。

 一方、先物が取引されるのは、銀行、ブローカー、エネルギー企業で構成される電子的な金融市場だ。新聞やインターネットで見かける原油相場はこの価格だ。後述する数々のおおむね特異な理由により、今週これがマイナス価格に沈んだ。

 先物取引は生産者、トレーダー、精製業者などが後日の取引価格を固定し、価格変動リスクから身を守るために利用している。一部の先物取引は、特定期日に決まった場所で現物を受け渡すことで決済する。この現物受け渡しの義務があることが、価格がマイナスになったことと関係がある。そのほかに現金で決済する先物取引もある。契約期日を迎えると先物価格と現物価格の差額の受け払いによって取引が終了する。

highlight type=BOLD原油の主な種類は?/highlight原油の主な種類は?

 WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は米国の代表的な原油指標だ。テキサス州からニューメキシコ州に広がるパーミアン盆地で産出される軽質で硫黄分が少ない油種を指す。こうした性質に加え、シェールブームで米国が世界最大の産油国となったことで、WTIの価格は世界中の投資家から注目されている。WTI原油先物は現物決済を必要とする。それが、今週WTIがマイナス価格をつけた理由の1つだ。

 もう1つの主要な油種は、北欧の沖合の油田で産出される北海ブレントだ。コクガン(brent)から名づけられ、1980年代末に世界の原油価格を代表する指標となった。だがブレント原油は枯渇しつつあり、現在は北海で産出される複数の異なる原油がロンドン市場でブレント相場を決めるのに使われている。

highlight type=BOLD原油はどのように売買されるか?/highlight原油はどのように売買されるか?

 現物市場では、売り手と買い手の非公開契約によって価格が決まり、詳細を広く知らせることはない。SPグローバル・プラッツなどのエネルギー情報会社がトレーダーの聞き取り調査に基づき、日々の価格情報を公表している。これらはスポット価格と言われる。誰でもバレル単位で原油を購入できる。

 先物市場はより透明性が高い。先物取引を主に扱うのは、CMEグループが運営するニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)と、ロンドンのインターコンチネンタル取引所(ICE)だ。トレーダーはブローカーや銀行を通じて売買を行う。油種ごとに数十種類の価格がある。各契約には原油の数量と受渡日が明記され、月ごとに限月がある。この価格は広く公開されている。

 原油先物はリスクがあるため、個人投資家は代わりに原油先物を裏付けとする上場投資信託(ETF)を購入することが多い。ETFは証券取引所で売買される。これにもリスクがあり、後述するように今週の市場混乱に一役買った。

highlight type=BOLD原油価格を変動させる要因は何か?/highlight原油価格を変動させる要因は何か?

 需給のバランスを変えるもの――例えば、中東の軍事衝突、パイプライン封鎖、タンカーの転覆――はすべて価格変動を引き起こす可能性がある。

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、世界の石油消費量を落ち込ませ、原油価格を数十年ぶりの低さに押し下げた。相場に影響する他の要因としては、金融市場の変化(株安に同調して原油相場が下がることが多い)や世界経済の見通しの変化(成長率が上向くとエネルギー需要は増える傾向がある)といったことだ。

 先物市場では、トレーダーの投機的観測が相場動向にさらなる影響を及ぼす場合がある。

新型コロナウイルスの世界的流行で産業界の原油需要が落ち込む一方、産油量は過去最高水準にある。原油急落がエネルギー市場を一変させる可能性について解説する(英語音声・英語字幕あり)

highlight type=BOLDなぜ先物取引が重要なのか?/highlightなぜ先物取引が重要なのか?

 先物取引は、売り手(多くはエクソンモービルのような産油会社)や買い手(サウスウエスト航空など)、そのほか燃料を大量に使う者が予測できない価格変動で窮地に追い込まれるのを防ぐ手段となる。いわゆるヘッジ戦略の導入を後押しするのは多くの場合、銀行や債権者だ。予期せぬ大幅な価格変動が生じた場合、彼らは損害を被る可能性があるからだ。

 「シェールオイル生産者は向こう1年間の自社油井の生産価格について守ろうとするだろう。また融資する銀行もそうすべきだと主張するだろう」。コンサルティング会社ラピダン・エナジー・グループのボブ・マクナリー社長は著書「Crude Volatility(原油の価格変動)」でこう述べた。

 また先物取引は、投資家やトレーダーが現物を保有することなく、原油高または原油安に賭ける手段も与えている。

highlight type=BOLD原油危機がなぜ起こっているのか/highlight原油危機がなぜ起こっているのか

 パンデミックによる飛行機の運航停止や車移動の急減、国際貿易の停滞で原油需要が激減した。国際エネルギー機関(IEA)によると、4月の需要は前年同月の日量1億バレル弱から2900万バレル減少し、5月はさらに2600万バレル減少する公算が大きい。

 石油を取り巻く地政学は長年、予測不能で波乱に満ちてきた。前回の産油大国同士の衝突では、サウジとロシアが3月初めに市場シェアを巡って対立。増産によって価格が下落した。その後、 link icon=none linkend=https://jp.wsj.com/articles/SB10894208827136204308604586320090640229556 type=EXTERNALドナルド・トランプ米大統領の仲介によって、両国をはじめとする主要産油国は日量970万バレル減産することで合意/link した。これは通常の世界の石油供給の約10%に相当するが、落ち込んだ需要と比較するとごくわずかにすぎない。

highlight type=BOLD今週の原油暴落は何が原因なのか/highlight今週の原油暴落は何が原因なのか

 現物市場と先物市場の乖離(かいり)だ。現物価格が下落しており、トレーダーは買い手がほとんどいないと不満をもらしていた。需要はいずれ上向くと見越した取引などによって、先物価格は比較的好調に推移していた。

 「少し前から見られた現物市場の現実に原油の金融市場が追いついている格好だ」。商品取引会社トラフィグラの主任エコノミストを務めるサアド・ラヒム氏はこう話す。「これは、ほぼ1カ月このシステムに蓄積されてきた全てが最高潮に達した結果だ」

highlight type=BOLD原油価格に何が起こったのか/highlight原油価格に何が起こったのか

 ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物5月限は21日に期日を迎えることになっていた。先物は最終取引日が近づくにつれ、市場参加者は数週間後に現物と交換する契約として扱うようになる。このプロセスは通常であれば秩序がある。WTI原油の受け渡し場所であるオクラホマ州クッシングには、十分な貯蔵余地があるためだ。

 20日に市場が崩壊したのは、クッシングの貯蔵施設が5月半ばまでに満タンになる見通しだからだ。5月先物を保有していた投資家やトレーダーは、貯蔵できない可能性のある原油を抱え込むのを避けようと売りを急いだ。だが、買い手がほとんど現れなかったため、価格は急落し、清算値は1バレル=マイナス37.63ドルとなった。

 投資家やトレーダーは、原油を受け取りたくないがために、わざわざお金を払って誰かにそれを引き取ってもらったということだ。

 「今は貯蔵施設の方が原油よりも価値があるもようだ」。IHSマークイットの副社長で「石油の世紀―支配者たちの興亡」の著者ダニエル・ヤーギン氏はこう話す。「貯蔵施設は物流の道具にすぎなかったが、今や貴重なコモディティーになっている」

highlight type=BOLDその他の要因はあるのか/highlightその他の要因はあるのか

 20日の価格急落はクッシングの物流上の制約が原因だというのが大方のトレーダーの見方だ。21日も下落が続き、WTI先物6月限が約43%安の11.57ドルとなった際には、別の金融面の要因も働いたとトレーダーは話していた。

 個人投資家やデートレーダーはこのところ、原油価格が盛り返すと見込んで、WTI先物価格連動型の上場投資信託(ETF)「USオイルファンド(USO)」に数十億ドルを投じている。USOは毎月、満期日に近づいているWTI先物を売却し、翌月の先物を買い付けている。こうした乗り換え処理は「ロールオーバー」と呼ばれている。

 USOは5月限がマイナスになる前にロールオーバーした。USOの運用会社は、保有する6月限の価格もマイナスに転じた場合、破産する可能性があるため、保有している先物の多くを遅い限月の先物にシフトしているという。

highlight type=BOLD原油市場で次に起こりそうなことは何か/highlight原油市場で次に起こりそうなことは何か

 原油市場の根本的な問題は依然、解決していない。サウジの原油を米メキシコ湾岸に向けて輸送している最中のタンカーは事態を悪化させるだろう。一部のトレーダーやアナリストは、WTI先物6月限が最終取引日の5月19日前にマイナスになる可能性があるとみている。

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