子どもの存在が
「賭け」になってしまう恐ろしさ

 同い年のサトシさんとは友人の紹介で知り合った。たまたま趣味が一緒で意気投合し、交際することになったが、マキさんは結婚を考えていなかった。

「結婚して子どもが生まれて、子どもにも自分と同じような思いをさせてしまったらどうしよう、と考えたらとてもじゃないけれど……。それに父は、『孫ができてもかわいがれる気がしない』と言っていたので、もし孫にまで暴力を振るわれたら……」

 結婚を切り出したサトシさんに、マキさんは自分の家庭の話をし、子どもが欲しいと思わないし、自分の家のことに夫を巻き込みたくない。そう言うと、サトシさんはあっさりとこう言い放ったという。

「今後、関わらなければいいんでしょ?」

 ごく当たり前のことを言っている、と思うだろう。

 しかし、それまでのマキさんは全て父の許可がなくては行動してはいけない、と思っていたし、結婚してもそれが変わらないような気がしていた。

 そんなマキさんに、サトシさんは「家族の絆なんてあってないようなものだ」と言った。

「夫のご両親は彼が高校生のときに離婚しているんです。お母さんがある日突然出ていって、そのまま帰ってこなかった。何度か『俺は母親に捨てられたから』ってあっけらかんと言っていました。血がつながっていても、あっさり捨てられるんだよ、って」

 両親の離婚経験から、サトシさんは家族の絆というものを一切信じておらず、「一緒に住んでいる他人」。マキさんの頭によぎったのは自分の母親のことだった。血がつながっていても、自分を父からかばってくれたことも、助けてくれたこともない。

「私は子どもに対して自分と同じ目に遭わせたくない、と思っていたんですが、彼のほうは『家族』というものを全く信じていなかったんです。私のことはどういう人となりか分かっているけど、生まれてくる子どもはどうか分からない。それこそ、そりが合わず、良い関係が築けないかもしれない。

 ネガティブな思考だと思われるかもしれません。でも、理由は違えど、子どもはつくらない、夫婦2人の生活でいいのではないかという結論になりました」