半ば強引に結婚
夫と2人の生活は幸せだった

 マキさんの父は当然、結婚には反対したが、サトシさんが半ば強引に進め、最後には結婚を了承させた。

 結婚して出ていくまでに力ずくで止められるかもしれない、と考えたが、今まで逆らったことがなかったマキさんの反乱ともいえる行動が、父親を黙らせた。マキさんは無事に婚姻届を提出、サトシさんと2人で暮らし始めることができた。

 マキさんの父からは、「結婚に際してのお金は一切出さないし、結婚式をやるとしても出席しない」とだけ最後に言われた。事実上、縁が切れた形になったが、願ったりかなったりだった。

「もうおびえて暮らさずに済むと思ったら、急に未来が明るくなった気がしました」

 もともと贅沢(ぜいたく)はしていなかったし、貯金は2人ともそれなりにあった。結婚式は挙げなかったが、スムーズに2人の新婚生活はスタートする。

 最初から子どもはつくらないと決めていたが、結婚してすぐに2人で貯金を始めた。老後のためだ。

「何が起こるか分からないけれど、とりあえずお金があればどうにかなるよね、って。毎月、決まった金額をそれぞれ銀行口座に振り込むようにしました。生活費とか家賃とか、最低限かかる金額は2人で割り振って、あとは財布は別々。夫婦というより、共同生活者という感じです」

 実家から離れ、ようやく自由になれた。仕事に打ち込み、休日はお互いの気が向けば夫とデートに出掛けるし、向かなければ、それぞれ気ままに過ごす。年に何度かは2人で旅行に行って、ほんの少し贅沢をした。ようやく、心からくつろげる時間を得られた、はずだった。

「君は誰のために生きているの?」
という夫の問い

 マキさんを次に苦しめ始めたのは周りからの声だった。結婚を報告すると、聞かれるのが「子どもは?」ということだ。「今はまだ結婚したばかりだし、2人でもいいかな、と思っています」とごまかせるのは新婚といわれる時期だけ。次第に、周りから子どもの話題を出されることが増えた。

「それぞれ実家とは疎遠になっていたので、家族親戚から言われることはなかったんですが、職場や友人から思いのほか無邪気に言われるんですよね。『子どもいらないのにどうして結婚したの?』って」

 結婚したら子どもをつくらなければならない、という考えは前時代的では、とも思う。しかし、きっと今までがそうだったから、「そうでなければならない」と考える人は思っている以上に多い。

 マキさんは、何気なく言われた言葉をひとつずつ丁寧に受け止めてしまった。そして悩む。子どもを産まないのに結婚してはいけなかったのか、と。

「自分たちが幸せだからいいじゃない、ほうっておいて、と当時は割り切れませんでした。なんだか、女性としての役割を果たしていない気がして……」

 気にしなければいい、と思うかもしれない。ただ、マキさんは心のどこかで後ろめたさも感じていたのだろう。周囲の声でその後ろめたさに自覚させられてしまった。

 しかし、そんなマキさんを救ったのはやはり夫の言葉だった。