視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のシニア・エディターである浅羽登志也氏がベンチャー起業やその後の経営者としての経験などからレビューします。
突飛なアイデアを
着実に実行に移す「畳み人」
だいぶ前の話だが、ある社外の方が私を褒めた一言が印象に残っている。
他社と合弁で、新しい事業会社を立ち上げた頃の話だ。
新会社では私も技術担当の役員として経営に参加した。そのため、事業の方向性などを話し合う会議にも参加していたのだが、そこでは、社長(私がもともと所属していた会社の社長が兼務していた)を中心に侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が行われることが多かった。まったく新しい事業を計画していたからだ。
その一言を発したのは、合弁相手の企業から派遣されていた年配の役員の方だ。「浅羽さんは、社長の話を大きく受けられますね」とおっしゃられたのだ。
「大きく受ける」とは、社長のアイデアに自分の考えを加えて受け取っているということ。つまり「そんなの無理です」と尻込みするでも、「いいですね」とそのまま受けるのでもなく、アイデアをふくらませて、より大きなものにしている。これは、なかなかできることではない、とその役員の方は感心してくださったのである。
せっかく褒めていただいたのだが、実際には「大きく受けた」がゆえに大変な思いをする羽目になることが多かった。やりがいはあったのだが、自分ではうまく実行しきれず、結局周りに迷惑をかけるケースが珍しくなかった。
私は、自分ではやり切れない仕事を自分でつくってしまう、「おっちょこちょい」にすぎなかったのだ。
あの頃、私はどうすれば、大きく受けたアイデアを、自分の手で実行することができたのだろうか。