「立ち食いそば」という業態で、1日7万食以上を売る「名代富士そば」。創業者のダイタングループ・丹道夫会長は「地味だけれども、安定して長く続けられる商売を」と考えて、現在のスタイルに行き着いた。同じような会社をいくつも作って分社化するなど、その経営は一見すると「非効率」だが、そこに成長の秘密が隠れているという。
そばが好きなわけじゃない
地味でも長く続く商売がしたかった
「名代富士そば」は2019年7月末現在、グループで国内134店舗、海外15店舗を展開している。国内の平均客単価は約450円で、1日7万食以上を売っている。それだけの人が日々、富士そばを食べてくれているというのはすごいことだ。
立ち食いそば店をチェーン展開しているから、「会長はそばが好きなんですか?」とよく聞かれるが、じつは、それほどそばが好きなわけではない。うどん文化圏である四国育ちだから、上京するまでは、そばの「そ」の字も知らなかったほどだ。
もともと「そば屋をやろう」とも、思ってはいなかった。ただ、「東京に出て成功したい」という夢だけは持っていた。漠然と考えていたのは、安定した収入が得られる仕事がしたい、ということ。地味だけれど長く続く商売を手がけたい、と思っていた。
例えば、高速道路の入り口では、みなが通行料を支払う。東京タワーの展望台に上るにはチケットを買う。ああいう商売はいいな、と思っていた。しかし、道路やビルを作るには莫大な費用がかかる。普通の人間が始める商売としては、夢のまた夢。もっと手がけやすくて、長く続けられる商売はないかと考えていたところ、立ち食いそばという業態を思いついた。
初めて立ち食いそばを見たのは、友人と一緒に東北を旅していた時だった。道中、電車の中から駅のホームにある立ち食いそば屋が見えた。おばあさんが1人で切り盛りしているような小さな店だった。客は慌ただしくそばを食べたかと思うと、発車の合図が鳴るとともに潮が引くように去っていく。なんと忙しい商売か、と思った。
と同時に、「この商売は東京に合うのではないだろうか」とも感じた。東北でこれだけ売れるのだから、忙しい東京ならば、もっと売れるはず――。そう思い、東京で立ち食いそばを始めた。