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データサイエンティストの冒険

現場の状況に即した打ち手を返すためのアナリティクスとは

工藤卓哉 [アクセンチュア]
【第2回】 2012年8月27日
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 震災を伝える海外メディアは、秩序を守り、規律正しく(暴動も起こさず)動きまわる日本の被災地や東京の人々の映像を通じて、被災現場に対し、多くの称賛と励ましの言葉を送っていた。これは国際的に見ても、日本人の現場力が非常に強いことの証左である。逆に言えば、この現場力を活用するかたちで、アナリティクスの展開アプローチを検討しないと、なかなか日本では根付かずうまくいかないのではないかとも思える。

 余談になるが、筆者は、カーネギーメロン大学の大学院在学時に日本的経営の特徴について真剣に議論したことがある。そこでなんとなく導き出された答えは「(繰り返しによる)現場力」である。今思い返すと、確かに言い得ている。日本的経営で称賛を受けるトヨタのカンバン方式も、先の震災の例も、現場での繰り返しの経験値を積み上げて改善していくという現場の反復アプローチである。そこには経営層からのトップダウン指示が直接的な改善ポイントを与えているわけではない。

 いい例が有人宇宙飛行事業である。これだけの技術力と現場力がありながら、日本は有人ロケットの打ち上げに2012年の8月時点で一度として成功していない。つまり繰り返しが効かない(現場力を生かした改善アプローチが効かない)工程には、日本という国はどうも後塵を拝しているとしか思えない。換言すると、トップダウンで失敗が許されない一回完結型の大規模事業や設計開発を要する有人飛行のような作業には、現場力が使えず障壁が多いのではないか。

日本のために貢献したい
だから私はここにいる

 そのときCNNは、助け合いながら秩序良く配給品を待つ被災者の姿を映していた。そのなかには、数十年来連れ添った夫を目の前の津波で失った年老いた女性もいた。彼女はそれでもなお毅然とした態度で、地元の若者に「(人命救助で)休みなく働いているあなたたちに食べて欲しい」と、配給されたばかりのおにぎり一つとたった一本のペットボトルの水を救助活動に向かう若者に渡そうとしていた。若者は受け取らず、「私も一つ食べましたから。お婆ちゃんどうぞ」と躊躇することなく笑顔で差し戻し、また救助活動に戻っていった。

 あの極限状態においてもなお、他人を思いやることのできる人間力ある日本人の姿、海外のレスキューチームが現場で支援を展開する姿を見て、筆者も頬を伝う涙が止まらなかった。あの映像に涙を流した人々は世界中で少なくないだろう。筆者はこの直後終身雇用職に就いていた米国政府を辞める決意をし、退職届を出した。日本のために貢献したいと、ニューヨークに家を残したまま不安定な日本への帰国を決意したのも、この映像を見たことが決定打になっている。今思うと無茶をしてしまったが、被災地の方々を想うと、そうせざるを得なかった。だから私はここにいる。

 

 現在、筆者はさまざまな業界に複数のクライアントを持っている。その一つに某銀⾏のお客様がある。この企業のトップは、アナリティクスを⽤いて⼈の夢の実現を、⾦融サービスの側⾯から⽀援し、⽇本を元気にしたいという社会的使命を持っておられる熱い企業経営者である。業界に先駆けて弱者やマイノリティを支援するための保障性保険商品の開発を推進されている、尊敬できる⽅だと思っている。そんな企業経営者の想いを形にする重要な一作業領域を⽀援できることを、この上なく幸せに思う。

 

 この記事の読者の皆さんは、さまざまな職業分野にさまざまな理由で就業されている⽅々だろう。就業されている理由は⼈それぞれあっていいと思う。筆者も単に、アナリティクスを武器として正しく使うことを使命とし、やり抜く気持ちで今を精いっぱい生きている愚直な人間の一人である。筆者の想いを共有することで、この記事を読まれた皆さん⾃⾝が、社会的に正しいと信じることに、ひたむきに各々の誇りと技術⼒を振り向けることに注⼒していただくきっかけになれば、周囲は変わると思う。分野に限らずその原動力の一助になれれば幸いである。

 

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工藤卓哉
[アクセンチュア]

Accenture Data Science Center of Excellence グローバル統括 兼
アクセンチュア アプライド・インテリジェンス マネジング・ディレクター
ARISE analytics Chief Science Officer (CSO)

慶應義塾大学を卒業しアクセンチュアに入社。コンサルタントとして活躍後、コロンビア大学国際公共政策大学院で学ぶため退職。同大学院で修士号を取得後、ブルームバーグ市長政権下のニューヨーク市で統計ディレクター職を歴任。在任中、カーネギーメロン工科大学情報技術科学大学院で修士号の取得も果たす。2011年にアクセンチュアに復職。 2016年11月より現職。 データサイエンスに関する数多くの著書、寄稿の執筆、講演活動を実施。


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