新型コロナウイルスの感染拡大が猛威を振るうなか、心肺補助システムの「ECMO(エクモ)」に注目が集まっている。そのECMOに限らずカテーテルなど高度な医療機器から注射器といった医療基盤を支えるものまで幅広く手掛けているのが、テルモ株式会社だ。海外市場で成長の波に乗り、直近では「グローバル幹部の育成」など、新時代の企業経営に取り組んでいる。テルモの佐藤慎次郎社長に、全世界2万6000人が働く世界企業の経営と「働き方」について聞いた。(聞き手/ビズリーチ代表取締役 多田洋祐)
*インタビューは2020年3月に実施
「失敗」したからこそ
海外市場に挑戦できた
多田 テルモは売り上げの約7割を海外事業で占めるほど、グローバル展開を積極的に進められていますね。20年前は逆に7割近くが日本市場だったとお聞きしました。そのような状況から大きく変わることができたのはなぜでしょうか。そして、グローバル市場での成功の鍵をお聞かせください。
佐藤 私たちが海外に展開できた理由はいくつかあります。
1つは、医療機器の産業自体が本質的にグローバルであるということです。テルモが扱っている医療機器は世界中にニーズがあります。また、市場の歴史を振り返れば、もともとアメリカをはじめとした欧米の国々が医療機器を発展させてきたという経緯があり、すでに大きな市場がグローバルに存在しています。法律や慣習などを別にすれば、日本で利用できる機器は、海外でも利用できるため、海外展開しやすい市場だといえます。
ところが、海外に製品をそのまま出せば、どの国でも売れるのかといえば違います。まもなく創業100年になるテルモは、1970年代から海外市場に進出しました。当時は日本で生産していた製品をそのまま海外に輸出したり、米国で工場を建てて現地生産も試みたりしたのですが、うまくいきませんでした。
その結果、1980年代には一度海外展開の戦略を見直すことになったのです。もっとも、その時代の失敗が、結果的に今の海外進出を加速させたといえるでしょう。