名門企業が変革に取り組んでいる。100年以上続く「旭硝子」の社名を変更したAGC株式会社。「AGC」といえば、俳優の高橋一生さんを起用したテレビCMを思い浮かべる人も多いのではないだろうか。大胆なブランドマーケティングを展開する一方で、収益構造を大きく転換し、2019年度は2014年度比で営業利益64%増を達成。歴史ある老舗企業でありながら新たな挑戦を続ける裏側に、どのような戦略が隠されているのだろうか。2015年に社長就任後、改革を指揮してきた島村琢哉社長にこれまでの取り組みについて聞いた。(聞き手/多田洋祐・ビズリーチ社長)
100年以上の歴史を持つ社名を
「AGC」に変更した理由
多田 2018年7月に旭硝子からAGCに社名変更されました。100年以上の歴史を持つ社名を変えるにあたっては、相当の苦労があったと想像します。
島村 実は社名変更については、かなり前から議論してきました。ロゴの変更は30年以上も前から始めていますし、2007年には国内外の関係会社でAGCを冠する社名に変更しています。しかし、親会社だけが旭硝子という社名だったのです。
多田 2007年にはすでに関係会社の社名をAGCに変えられていたということは、親会社の社名変更は、それから長年検討されてきたのだと思います。そのようななか、島村社長の社長就任後、わずか3年で社名を変更されました。ご決断の背景をぜひお聞かせください。
島村 旭硝子という伝統ある社名には、私自身愛着もありましたし、誇りもありました。しかし当社はガラスだけではなく、電子、化学品、セラミックスなど様々な素材を扱っています。「ガラスの会社がなぜ電子部材を?」などと誤解されることも増えてきたのです。
また、アジア、米州、欧州など30を超える国と地域の従業員5万5000人がAGCの名前で働いている中、グローバル一体経営を実現するためにも、AGCに社名を統一する時期がきたと判断しました。
多田 歴史ある名前にこだわるのか、業態に合わせて踏み出すか――判断は難しいですね。
島村 ええ。様々な意見があります。その中でも私たちの揺るぎない基準とはなにか。言い換えれば、私たちは何を大切にする会社にしてくべきか……。行き着く先にあるのが原点、創業者の想いです。