天才数学者たちの知性の煌めき、絵画や音楽などの背景にある芸術性、AIやビッグデータを支える有用性…。とても美しくて、あまりにも深遠で、ものすごく役に立つ学問である数学の魅力を、身近な話題を導入に、語りかけるような文章、丁寧な説明で解き明かす数学エッセイ『とてつもない数学』が6月4日に発刊される。

教育系YouTuberヨビノリたくみ氏から「色々な角度から『数学の美しさ』を実感できる一冊!!」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

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他人を説得するために欠かせない技術

 単位量あたりの大きさを使った数字の意味付けは、他人を説得する際には欠かせない。プレゼンの達人を1人挙げなさいというアンケートがあれば、2011年に亡くなったスティーブ・ジョブズ氏は、今でも圧倒的多数の支持を得て1位になることだろう。アップル社の製品を魅力的に紹介したジョブズ氏のプレゼンはさまざまな切り口で分析されているが、どのようなときも必ず指摘されるのが、数字の使い方の上手さである。

 2008年の「マックワールド」(アップル製品の発表や展示が行われるイベント)で、ジョブズ氏は初代iPhoneが発売から200日間で400万台売れたことを紹介した。この「400万」という数字は確かにすごい数字だ。ただ大きすぎて印象がぼやけるのも事実。そこでジョブズ氏はすぐあとに「これは毎日2万台のiPhoneが売れている計算になる」と続けた。「1日あたり2万台」という単位量あたりの大きさを使うことで、数字の持つ意味を一瞬にして聴衆に理解させたのである。このときの様子はしばしば紹介されるので、ごぞんじの読者も多いことだろう。

 2001年に発表された初代iPod(音楽プレーヤー)は、185グラムという軽量ボディの中に5GBの容量があることが売りだった。B(バイト)というのはデータの容量を表す単位であるが、5GBがどれほどの容量かがすぐに分かる人は少ないだろう。そこでジョブズは、ポップス1曲あたりの容量は約5MBであることと、G(ギガ=10億倍)は、M(メガ=100万倍)の1000倍であることから、プレゼンでは「1000曲をポケットに」と表現した。「5GBを185グラムに」より圧倒的にわかりやすい。