3月後半、コロナ禍がいよいよ苛烈を極めてきたころ、感染した患者を受け入れる各地の病院はまさに戦場と化し、医療崩壊への危惧がいよいよ高まっていた。そんな中、多忙を極め、疲弊しはじめていたのは医師や看護師など医療従事者ばかりではなかった。院内感染が起きたら患者の受け入れも、治療もストップしてしまう。こうした最悪の事態を防ぐために、日夜、懸命の作業を行っている者たちがいた。コロナ病棟の消毒・除菌作業にあたる民間業者のスタッフたちである。そんな業者の一つを取材すると、今も続く、見えない敵との壮絶な闘いが見えてきた。(ライター 根本直樹)
コロナ病棟の作業を
決死の覚悟で受注
「僕が行きます、僕に行かせてください」
2月下旬、これまで総合病院や羽田空港など大規模施設の清掃・消毒・除菌を請け負って実績を上げてきた民間業者、ウイルス除菌研究所(以下『ウイルス研』https://water.jp/)の電話はパンク寸前となった。新型コロナの感染拡大が進み、コロナ病棟のある各地の病院から依頼が殺到したのである。
ウイルス研の現場責任者である飯島聡介(39歳)はその時のことを振り返り、次のように語る。
「仕事の依頼が一気に20倍以上に増えた。仕事が増えるのはうれしいことですが、すべてコロナ絡み。スタッフの安全を考えたら、簡単に『はい、わかりました』とはいきませんでした」
躊躇する飯島に、ベテラン男性スタッフの1人が切羽詰まったような顔で詰め寄ってきたという。それが冒頭の言葉である。
男性スタッフはさらに言った。
「僕らがやらないで、誰がやるんですか」
この言葉に飯島は胸を揺さぶられた。
そして、すぐに“ボス”に連絡をとった。ウイルス研の運営や、医師、ナースの派遣を主業務とするリアン株式会社代表取締役で、『在宅医療の光と闇』(幻冬舎刊)という著書で業界をざわつかせたこともある北條康弘(52歳)である。
北條は一瞬沈黙した後、力強い声で言った。
「やろう。たしかに危険な作業だが、これほど社会的に意義のある仕事もない。スタッフの安全管理を徹底した上で、できる限りお客様の要望に応えるんだ」
こうしてウイルス研スタッフたちの、終わりの見えないハードな闘いが始まったのである。