知ってるはずの彼女
「この人は、いったい何者なのか……」
この2カ月間、彼女を見かけない日があっただろうか。テレビや新聞、ネットで私たちは毎日のように彼女の姿を目にし、彼女が語る言葉に耳を傾けてきた。誰もが彼女の顔と名前を知っている。そこには見慣れたリーダーの姿があった。
だが本書『女帝 小池百合子』を読んだ後は、奇妙な感覚にとらわれるに違いない。彼女のことを確かに知っていたはずなのに、急に見知らぬ人間のように思えるからだ。そして次の瞬間、戦慄が背筋を駆け上る。「この人は、いったい何者なのか……」
本書は女性初の東京都知事であり、また女性初の総理候補とも目される小池百合子の知られざる半生を描いたノンフィクションである。本書の発売日前後に、ある新聞のコラムで「暴露本」と表現しているのを見かけたが、おそらくコラムの書き手はこの本を読まずに書いたのだろう。著者は3年半にわたる綿密な取材を通じて、百人を超える関係者の証言を集め、小池が長年にわたり隠し続けてきた経歴にメスを入れている。そこには公職選挙法違反にも問われかねない重大な疑惑があった。本書は、「暴露本」などという安っぽい響きとは対極にある、プロによる瞠目すべき仕事である。