プロセスそのものが変わるのですね。
おっしゃる通りです。監査業務に当たっては、さまざまな専門家から成るチームを組んでいます。今後、業務プロセスをいっそう細分化し、高度化を進める必要があります。
従来は、会計士がゼネラリストとして多くの業務を担っていたこともあり、監査法人の組織はどちらかというと年功序列によるピラミッド型だったと思います。しかし、これからは機能ごとに、より高い専門性が求められることが予想され、業務が細分化し、組織もより柔軟な形に変化していくと考えられます。これによって、異なるバックグラウンドを持つ人が集まる土壌が形成され、多様性も高まるのではないかと期待しています。
こうした変化は顧客企業にとっても歓迎すべきものだと思います。監査の品質を高めるには本来、多様なプロフェッショナルの力が不可欠なはずです。
「試査」から「精査的手法」へ
求められるスキルは激変
具体的に、どんな監査チーム体制が想定されますか。
たとえば図表「監査体制のビジネススタイルが変わる」のような体制が考えられます。「コア監査メンバー」を核にして、監査のプランニングと進捗管理を行う「監査プロセスエンジニア」、その業種に関する深い知見を有する「ビジネスアドバイザー」、データ分析などの専門家「データ分析スペシャリスト」、特定分野を習熟した「テクニカルスペシャリスト」などです。
テクノロジーの進化で、監査の品質に影響があるのでしょうか。
劇的、圧倒的な変化が起こるはずです。最も顕著なのは、監査業務が「試査」から「精査的手法」になることではないでしょうか。従来の監査では、売上高が大きい取引や規模の大きな子会社を抽出して検証したり、取引の一部をサンプルとして抽出し、それをもとに全体を推定したり、といった試査による検証を実施していました。今後の企業規模の拡大やグローバル化の進展を踏まえると、人的作業に基づく試査で、すべての情報を把握するのは困難になっています。こうした中で、個々の会計士の知見や経験が頼みの従来の方法では、複雑なスキームを利用した不適切な売上げの計上や海外子会社の不正等を見逃す可能性があります。
事務処理を自動化するRPAや高度な機能を持つAIを活用し、財務データだけでなく非財務データも含め、膨大なデータを利用することによって、精査的な手法による検証が可能になります。分析結果をグラフなどで可視化すれば、データに潜むリスクが一目瞭然となります。