新年度スタートからはや2か月。社内外の人間関係で悩んでいる人も多そうだ。そんな人にお薦めなのが、「これは傑作。飛び抜けて面白い必読の一冊」「本当に悩みが解消した」と絶賛されている『「悩まない人」の考え方 ―― 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』(木下勝寿著)だ。今回は、「絶対達成コンサルタント」として数々の実績を残してきた横山信弘氏が本書から学んだ「管理職の悩みを解消するヒント」をお届けする。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

ショッキングな出来事に深く悩んだ人事部長
「まさか、幹部候補生が“退職代行”を使って辞めるなんて……」
将来の幹部候補として採用した若手が、退職代行を利用して辞めた。
この事態に人事部長は大きく落ち込み、深く悩んだ。
当然だろう。このプロジェクトは社長肝いりのプロジェクトだったからだ。
さて、こんな深刻な悩みに直面したとき、どのようにリフレーミング(視点の切り替え)をしたらいいのだろうか?
そこで今回は、発想の転換をして悩みを解消するコツを紹介しよう。
人の採用や部下育成などに悩みをもつ経営者、マネジャーはぜひ最後まで読んでいただきたい。
なぜ優秀な人材なのに「退職代行」を?
ある企業の人事部長は、社長の強い要請で採用・育成戦略を根本から見直していた。
3年間かけて将来の幹部候補生として5人を採用し、特別な報酬や育成環境を整えたのだ。
にもかかわらず、そのうち3人が辞めてしまった。
さらに衝撃だったのは昨年のことだ。1人が退職代行を利用して辞めてしまったのである。
この人事部長は日頃から「君たちには期待している」「わが社の将来は、あなたたちにかかっている」と声をかけ続けていた。
だからこそ、退職代行を使われたことで心に深い傷を負ってしまった。
「せめて直接顔を合わせて話し合いたかった」
「もし何か問題があったなら、改善する余地もあったのに」
だが、他の役員からは「期待をかけすぎたのが原因ではないか」といった指摘もされた。
実際に、経営会議では「若手にプレッシャーをかけすぎるな」という意見が多数派となり、採用や育成方針を根本から見直すべきだという空気まで漂っていた。
人事部長は夜な夜な自問自答を繰り返した。
「本当にプレッシャーをかけてはいけないのか?」
「期待することが間違っていたのか?」
「このままでは、真のリーダーは育たないのではないか」
日々心の中で葛藤し続けた。
プレッシャーは必要な要素
この悩みを相談された私は、「気持ちはわかります」と伝えた後、あえて反対の意見を伝えた。
「プレッシャーに弱い人を幹部にするほうが、企業にとってよくないと思います。
名ばかり幹部は必要ありません。
ストレスに強く、覚悟を決められる若者だって多いはずです」
そのように進言すると、人事部長は大きくうなずいた。
「たしかに……」
退職代行を使った若手は真面目で責任感が強い人物だった。
後ほど聞いた話によると、会社に不満があったわけではなく、むしろ「お世話になったみなさんに申し訳ない」という気持ちが強すぎて、直接顔を合わせられなかったようだ。
しかし、将来の幹部として組織を率いていく立場には、困難な場面でも逃げない覚悟が必要だ。
組織のリーダーは日々プレッシャーと向き合い、時に厳しい決断を下さなければならない。
しかも幹部ともなれば、そこで働く社員だけでなく、その家族のことも考え意思決定しなければならない時も多い。
どんな状況でもブレない精神力は、幹部に求められる重要なコンピテンシーなのだ。
耐えられないプレッシャーから逃げたことは、結果的に「この人材は幹部候補としては適していなかった」ことを示している。
むしろ早い段階でこれが明らかになったのは、組織にとっても本人にとっても幸いだったのではないか。
対話しているうちに人事部長は、そのように解釈してくれた。
「10回に1回の法則」を採用戦略に活かす
このような状況に効果的なのが、ベストセラー『「悩まない人」の考え方』でも紹介されている「10回に1回の法則」だと私は思う。
この法則によれば、人が何かに本気でトライした場合、最初の9回は失敗し、10回目で成功するようになっているという(もちろん実際には、1回目や2回目に成功することもある)。
つまり、失敗を前提に物事に取り組むと気持ちが軽くなる、ということだ。
かつての営業の世界には「せんみつ」という言葉があった。
1000回アプローチしても3件しか成約しないという意味で使われた。
昨今は不確実性の時代だ。人の価値観も多様化している。優秀な人材の採用や育成は、これと似たような難しさを持っていると捉えたほうがいい。
「10回に1回の法則」を採用戦略に当てはめれば、5人全員が幹部候補として残ることは非現実的だ。むしろ、10人に1人の割合で本当の幹部が見つかれば十分だ。
長期的視点で採用戦略を考える
「まだ、新しい採用戦略を始めて2年や3年です。だから悩まなくてもいいでしょう」
私はそう人事部長を励ました。
長い歴史の中で企業を支えてくれる人材を見つけるのだから、途中で失敗があっても当然だ。
この言葉を聞いた人事部長は、吹っ切れた表情を見せた。
採用や育成の「失敗」を恐れるのではなく、むしろそれを次につなげる貴重な経験として捉え直したのだ。
まさにこれがリフレーミングである。
重要なのは、挫折や退職者を出したことを、必要以上に悩まないこと。
採用した5人のうち、2人が残ったという事実に目を向け、この2人を大切に育てることだ。そして次の採用では、今回の経験を活かしていく。
「10回に1回の法則」で吹っ切れた2つの事例
『「悩まない人」の考え方』で紹介されている、この「10回に1回の法則」は、私の大好きな理論だ。
私が「大量行動」を信条に、絶対達成のコンサルティングをしているせいだろう。
同じような発想で、悩みを解消した事例を2つほど紹介したい。
ある商品企画部の担当者は、企画を通すことができずに悩んでいた。
最終決定をする社長が、なかなか首を縦に振らないのである。
真剣に考えたアイデアが4回も5回もダメだと突っ返されると、さすがに心が折れそうになることもあった。
しかし、
「『一勝九敗』という柳井さんの書籍がある。まだまだあきらめないで」
そう私が励ましたところ、8回目で企画が通った。
その後は「失敗してナンボ」と考え、どんどん企画を出すようになり、勝率も上がっていった。
次に紹介するのは、不動産会社の新人営業のエピソードだ。
「大量行動」を教え込んだところ、その新人はすぐに新規開拓が得意になった。
彼女のマイルールは「脱・一期一会」だ。
「一回の機会を大切にする、という考えは捨てました」
「初対面の人には、うまく話せない」という長年の悩みがあった彼女は、自分の伝えたいことを5つか6つに分解するようにした。
そして、お客様に会うたびに、一つひとつ伝えるようにしたのだった。
「6回接触しても伝わらないなら、それは失敗です。でも、それまでは失敗とは思いません」
と言うのだから、たくましい。むしろ1回や2回で話が通じたら、それは運がよかっただけだと割り切る。
毎回の接触を完ぺきにしようとせず、何度も接触することで、ドンドン契約を増やしていった。
まとめ
「10回に1回の法則」は採用戦略だけでなく人生のあらゆる場面で効果を発揮するだろう。悩みやすい人には、とても効果的な理論だ。
何より失敗を前提に物事を考えれば、前向きな姿勢が身につく。
不安や恐れに悩まされることは大幅に減るはずだ。悩みやすい人が「悩まない人」に変わるには、このような発想の転換が必要なのだ。
(本書は『「悩まない人」の考え方』に関する書き下ろし特別投稿です)
横山信弘(よこやま・のぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント
最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成する部下の育て方』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。