「AIがすごいのはわかる。でも、実際の仕事では使えないよね――」。そう語る人は少なくない。AIを活用するどころか、“トレンド”として消費しているだけの人も多い。その一方で、「AIを使いこなす人」と「使えない人」の間で、能力や効率の差は見えないところでどんどん広がっている…
この現実を、すでにAIを使いこなしている人たちはどう見ているのか。AIを「思考や発想」に活用するための書籍『AIを使って考えるための全技術』の発売を記念して、元起業家で、現在は大手ITベンチャー企業で生成AIの社内推進を担っているハヤカワ五味さんに話を聞いた(ダイヤモンド社書籍編集局)。

これからのAI時代で「搾取される側」になってしまう人の共通点とは?Photo: Adobe Stock

AIを使わない人たちに「言い訳させない」

――AIに対して抵抗がある人もいるなか、社内で推進するためにどのようなアプローチをしていきましたか?

 まずは、勉強会を死ぬほどやりました。とにかく、生成AIを見せて、触らせて、使わせる。そんな“空気づくり”が最初の3ヵ月~半年の課題でした。

これからのAI時代で「搾取される側」になってしまう人の共通点とは?ハヤカワ五味(はやかわ・ごみ)
2015年頭に株式会社ウツワを創業後、ランジェリーブランド『feast』、フェムテック事業『ILLUMINATE』など、多数の事業を展開。2022年3月にはユーグレナグループに参画し、はたらく女性向けの新規事業開発に取り組む。24年4月に退職後、2024年7月に大手ITベンチャーにジョインし、生成AI利用の社内推進に尽力している。生成AIの利活用に関してSNSでも積極的に発信している。

 具体的には、社内ランチ勉強会を9月から12月にかけて19回開催。参加者はのべ約1700人。当時はまだ私1人だったので、資料も話す内容もすべて自前です。毎週1回以上やっていたので、もう“狂気”ですよ。

 また、社内の人の生成AIを使わない理由として「AIの情報が追いきれないから」という声も意外と多かったので、勉強会ではAIのトレンドも共有して、「とりあえず勉強会さえ参加していれば、あとはなんでもいいです」と言っていました(笑)。「言い訳させるもんか……」と思いながらやっていましたね。

ここまでやっても「文句を言ってくる人」はいる

 勉強会をただの座学にして知った気になってもらうだけでは意味がないので、その場で実際に議事録データを要約してもらうとか、タスクをスプレッドシートに書き出すとか、体験して初めて「これ仕事で使えるかも」と実感できていったようです。

 最近では、職種別の勉強会もやっていました。たとえばCSやHRの部門で、どうやってAIを活かすか。いわゆる、DXとかチェンジマネジメント、生成AI導入で必要とされることは、正直、思いつくかぎり全部やったんじゃないでしょうか。

――そこまでの尽力があれば、感謝の声も多かったのでは?

 いや、感謝なんてされないですよ。
 なかには「目立ちたいからやってるんでしょ?」みたいな冷ややかな声もあります。「じゃあ代わりにやってよ」って言いたくなる。普通にめちゃくちゃ落ち込みもしました。

 でも、そもそも、文句を言う人が社会を変えてくれるわけでもないので、いったん無視して自分なりにやってましたね。

今が「搾取される側」にならないためのラストチャンス

 正直、反発をしている人たちは、いよいよ焦ったほうがいいと思っています。来年くらいになると、もう誰も生成AIを教えてくれなくなってくるはずだから。

 というのも、AIを「使える人」たちが「使えない人」たちを搾取する構造ができてくると思うんですよね。そうなると「わざわざ教える意味」もなくなる。差がついてしまったほうが、生成AIを使える側の自分にとって有利だから。

 今はまだSNSでも書籍でも「一緒に学んだ方が楽しい」という空気がある。でも、それもある日突然、パタリと終わるんじゃないかと思っています。格差が広がって、最後に残るのは、生成AI関係の怪しい情報商材屋だけ。そんな未来は普通にあり得ると思ってます。

 すでに今だって、AIがこれだけ便利になってくると、ぶっちゃけやる気がない人に生成AIを教えるよりも、その人の仕事を代替できる仕組みを生成AIと作ったほうが早いんじゃないでしょうか。でも、それをやらないのは優しさだと思うんですよね。

 ちゃんと教えてくれる人がいて、真っ当なコンテンツがあって、質問もできる。そういうフェーズは、もう長くは続かないんじゃないかなあと。だから、今がギリギリの学びどきだし、今、みんなで学んでほしいと思っていますね。

(本稿は、書籍『AIを使って考えるための全技術』に関連したインタビュー記事です)