「手に職をつけて、自分の力で食っていく」。そんなキャリア観が、AIの登場によって根底から揺らいでいる。あらゆる業務が一瞬で完了でき、誰もがコンテンツを無尽蔵に生み出せるようになった時代に、私たち人間はキャリアにおいてどのような生存戦略をとるべきなのだろうか。
AIを「思考や発想」に活用するための書籍『AIを使って考えるための全技術』の発売を記念して、起業家であり、「やりたいことが見つからない人」に向けてキャリア設計を説いた書籍『物語思考』の著者でもあるけんすう(古川健介)さんに「AI時代のキャリア戦略」について話を聞いた(ダイヤモンド社書籍編集局)。

「過去と未来」を無理に繋げてしまう人たち
――最近はAIに自分のキャリアを相談する人も増えていますが、これをどう思いますか?
たしかにそういう使い方、増えてますよね。ただ、僕のスタンスとしては、「棚卸し」や「自己理解」って言われても、そもそも“棚に荷物がそんなにない人”がいくら一生懸命整理しても、あまり意味がないと思っています。

けんすう(古川健介)
アル株式会社代表取締役
学生時代からインターネットサービスに携わり、2006年株式会社リクルートに入社。新規事業担当を経て、2009年に株式会社ロケットスタート(のちの株式会社nanapi)を創業。2014年にKDDIグループにジョインし、Supership株式会社取締役に就任。2018年から現職。会員制ビジネスメディア「アル開発室」において、ほぼ毎日記事を投稿中。
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むしろ良くないのが、自己分析をした結果、「子どもの頃にこんな体験をしたから、これが自分の原体験だ」とか、無理に過去を掘り下げて変な結論に達して、自分の可能性を“固定化”してしまうこと。
自己分析をすると、「人を助けることが多かったから、自分は“人を助ける仕事”が向いてる」とか決めつけがちです。だけど、じつはもっとアーティスト気質で、“自分の好きなことを自由にやる”方が向いているかもしれない。
学生時代までの行動と社会人としての仕事って繋がっていないですし、無理に繋げる必要もないと思うんです。
そもそも、“人を理解して評価する”って、すごく高度なスキルです。僕にもできませんし、経験のある人事やプロのカウンセラーでないと難しいのに、なぜか皆、自分のことは自分で理解できると思い込んでいるんですよね。
過去の延長ではなく、「未来への1歩」を歩む
実際には、過去が今の自分に与える影響よりも、「未来でどうなりたいか」の方が強く影響を与えると思います。
たとえば、昨日まで野球をやってた人が「将来はテニスのプロになりたい」と思ったら、いますぐテニスを始めた方がいいじゃないですか。でも多くの自己分析は、「自分は野球が得意だったから、これからも野球をやるべきだ」みたいな発想になってしまう。
だからこそ、僕が書いた『物語思考』では「過去を振り返るより、未来から逆算しよう」と言っています。

けんすう(古川健介)著、260ページ、幻冬舎
でも、ここも難しくて、「過去にとらわれずに未来を描く」って簡単じゃないんですよ。
たとえば年収500万円の人に「理想の状態は?」って聞くと、たいてい「年収1000万円」とか言うんです。でも「1200万円の方が良くないですか?」って言うと、「まあ、確かに」ってなる。そこで始めて、「自分は無意識に“現実的な範囲”でしか未来を考えてなかったんだな」って気づくんですよね。
年収1000万円と1200万円ならそんなに変わらないですけど、これが「年収1億円を目指す」とかになったら「今の働き方では無理だよね」となる。そこでようやく自分が望む方向に人生を正しく動かす方法が見えてくるんです。
AIを使って「頭の中の枷(かせ)」を外す
この気づきを僕は、「頭の中の枷(かせ)を外す」って言い方をしてるんですが、ここでもAIはすごく使えると思ってます。
たとえば、これまでの人生をAIに投げて「小説にしてください」ってやってみる。すると、自分の人生を客観視できます。
その物語を読んで、「展開がつまらないな」とか「このまま同じ会社で働いてても、あんまり面白くならなそうだな」とか思ったら、「もっと面白くなるように、今後の展開を書いて」ってAIにお願いしてみるんです。
「一行読んだら次が気になるようにしてください」とか指示すると、ちょっとワクワクする展開が出てくるんですよね。
そうやって、自分のなかの“見えてなかった可能性”に気づく。これって、AIのすごく有効な使い方だと思います。
(本稿は、書籍『AIを使って考えるための全技術』に関連したインタビュー記事です)