米国で黒人のジョージ・フロイドさんが警官に押さえ付けられて死亡した事件と、その後英国で起きた人種差別への抗議行動は、英国内で予期せぬ事態を引き起こした。それは大英帝国に関する熱のこもった論議だ。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受け、多くの人々が未来に無力感を抱いている現状の中、過去が論争の的になっている。他の大半の欧州諸国と違って、英国は自国の過去について体系的な再評価を全く行ってこなかった。公共の場からの記念碑の大量撤去を引き起こすような革命も、独裁も、外国による占領もなかった。大半の英国人は、自国の歴史に多くの恥ずべき部分があるとは考えていなかった。英国の帝国主義の遺産を精査する動きは、過去20年ほどの間に徐々に強まっていた。しかし、イングランド西部の港湾都市ブリストルで今月起きた「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」をスローガンとする抗議行動で、18世紀の奴隷商人で慈善家のエドワード・コルストンの像が引き倒され湾に投げ込まれたことを受け、帝国の遺産をめぐる論議に新たな勢いが生まれた。