天才数学者たちの知性の煌めき、絵画や音楽などの背景にある芸術性、AIやビッグデータを支える有用性…。とても美しくて、あまりにも深遠で、ものすごく役に立つ学問である数学の魅力を、身近な話題を導入に、語りかけるような文章、丁寧な説明で解き明かす数学エッセイ『とてつもない数学』が6月4日に発刊。発売4日で1万部の大増刷となっている。
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計算記号はいつ生まれた?
普段、私たちが当たり前に使っている「+」「-」「×」「÷」の計算記号、いったいいつ頃から使われているかご存じだろうか? 実はこれらの記号の歴史はそう古くない。「+」と「-」は15世紀の終わり、「×」と「÷」が使われだしたのは17世紀に入ってからである。
今から500年ほど前、ヨーロッパはいわゆる大航海時代を迎え、船による商業活動が盛んになっていた。レーダーなどはないので、遠方まで安全に航行するためには天体を観測して航路を計算する必要がある。文字通り、天文学的な数字の計算が必要になった。計算の記号が生まれた背景には、長大な計算を少しでも楽にしたいという切実な思いがあったのだと思う。
「+」と「-」は、どちらも文字を速記しているうちにできたという説が有力である。「+」はラテン語のet(英語で言うand)からできたと言われている。一方の「-」はマイナス(minus)の頭文字mを筆記体で略したのが始まりだとか。
他に、「+」と「-」の起源は船乗りたちが使った印だという説もある。船乗りたちは、船内に備えられた樽から水を使った時に横線(-)を引いていた。また、その後樽に水を注ぎ足したときには、横線の上に縦線を引いた形(+)を印として使っていた。減ったときに使った「-」と、増えたときに使った「+」がそれぞれ引き算と足し算の記号になったというのが船乗り起源説である。
「×」と「÷」に関しては、最初に使った人がわかっている。「×」はイギリスのウィリアム・オートレッド(1574~1660)という数学者が1631年に著書の中で使ったのが最初である。ただし形の由来には諸説があり、キリスト教の十字架を斜めにしたという説と、スコットランドの国旗から形をとったという説とがある。余談だが、オートレッドは三角関数の「sin(サイン)」を最初に使った人物でもある。
掛け算を表す記号には「・」もある。実は、掛け算を表す「×」はヨーロッパ大陸ではあまり流行らなかった。当時、ドイツのゴットフリート・ライプニッツは、スイスのベルヌーイに送った手紙の中で「私は掛け算の記号として『×』を好まない。容易に『x(エックス)』と間違ってしまうからだ。私は単純に『・』を2つの量の間に入れて掛け算を表すことにする」と書いている。
当時はこうした意見が主流だったらしい。その後、タイプライターやパソコンが普及してからは、掛け算を表す「×」は使われなくなっていく。特に半角英数字では絶望的に『x(エックス)』と紛らわしいからである。実際、現代のパソコンのキーボードにも掛け算を表す「×」のキーは無い。表計算ソフトのエクセルなどで掛け算を打ち込むときは「*(アスタリスク)」を使う。