年間100回以上、受講者数3万人を教えてきた企業研修や講演の中から、リーダーの悩みをピックアップ。内容によっては、「本当にこんなことが起きているの?」「ウチの会社ではこんなレベルの低いことは起きていないよ」と思うこともあるかもしれません。しかし、これらはすべて、実際に現場のリーダーが抱えている問題なのです。
自分の意識を変えるのでさえ難しいのですから、部下の意識を変えさせるのはもっと難しいもの。そこで、新刊『どう伝えればわかってもらえるのか? 部下に届く 言葉がけの正解』から、シーン別にNG行動・発言とOK行動・発言を対比させながらどのような言動で接したらいいかを紹介していきます。
×改善点を複数挙げる
○改善ポイントを1つに絞る
リーダーの悩み:頑張っているのに結果の出ない部下をどうすればいい?
部下Cさんは、一生懸命やっているのになかなか成果があがりません。リーダーAさんは何とかしてあげたいと思うのですが、なかなかうまくいきませんでした。
Cさんには、改善ポイントが多くあります。
リーダーのAさんは部下のためを思い、
「今言ったところをひと通り直してくれればいいよ」(×)
と、改善ポイントをどんどん指摘しますが、うまくいきません。
多くの改善ポイントを一度に指摘してしまうと、どこから改善していいかわからなくなるからです。そもそも改善ポイントを一気に直すのは、非常に難しいのです。
さらに人は自信をなくすと、問題のところだけでなく他の部分までできなくなってしまうものです。悪循環に陥っているのかもしれません。
問題を多く抱えている部下には「改善できた」という成功体験を積ませて、自信を持たせてあげる必要があります。
…>改善にも優先順位がある
多くの改善ポイントがある場合は、
「まずはこれを直すことだけを考えよう」(○)
と、1つに絞って修正していけばいいのです。
1つに絞ることによって集中できますし、取り組みやすいでしょう。また、改善できたという「成功体験」が次につながります。
また、どこから改善していくかについては、「『成果』と『実現度』の軸で大事な仕事を後回しにさせない」でお伝えした成果の大きいものを優先していくといいでしょう。改善した成果が大きいと成功したことが自信になりますし、モチベーションも上がります。
実現の可能性も重要でしたね。実現する可能性が低いものから改善していこうとすると、なかなか改善しないので前に進めなくなり、そのうちモチベーションも落ちてしまいます。
そこで成果と実現度を判断基準として、一つ一つ段階ごとに改善していく計画を立てます。そのうえで、第1段階は○○を直す、第2段階は△△を直すというふうにしていきましょう。1つの段階を修正している間は、他のことには目をつぶります。
…>「原因追求」と「ダメ出し」はしない
大切なポイントは、部下の「自己有能感」を満たすフィードバックをすることです。
「自己有能感」とは、自分ができる人間であること・成長していることを実感したい欲求のことです。
うまくいったときはいいのですが、改善できなかった場合は注意が必要です。このとき、やってはいけないのが「原因追及」と「ダメ出し」です。原因は追及しなければいけないと考える方もいるかもしれません。
けれども、「原因追及」は相手を追い詰めるだけです。リーダーがやるべきことは、「ウィークポイントの改善」です。
部下にとって、ウィークポイントの改善は、あまり積極的にやりたいことではありませんし、そもそもうまくいかない確率が高いものです。
結果的に克服できたとしても、それまでは何度も失敗するかもしれません。そんなとき、部下の勇気をくじかないように意識する必要があるのです。
原因追及ではなく、次回はどのように取り組むか(問題解決していくか)を聞くべきなのです。その際、圧迫感を与えない言い方として、「Iメッセージ」を使うといいでしょう。
Iメッセージとは、「この部分を直していくのが(私は)いいと思うよ」というような「私は」を主語に使った言い方です。
対照的なのがYOUメッセージです。「(あなたは)これを直すべきだ」と、相手である「あなた」を主語に使っています。
Iメッセージはあくまでもリーダー側の意見ということで、言われる側が圧迫感を感じないのです。
そのうえで、「できている部分」と「次回からどう取り組むか」をヒアリングしていきます。問題の解決策(次回どうしたらいいか)を自分で考えつかない場合にはアドバイスをしましょう。
こうして、「すべてがダメではなく、できている部分があって役に立っている」と自己有能感を満たしていくことで、部下も次の改善点に目を向けて取り組むようになります。一度にすべてを直そうとするより、一つ一つ直していくほうが結果に結びつくのです。
【ポイント】
1つずつ直していくことで、早く結果が出るようになる