改正福祉法が成立
新制度「社会福祉連携推進法人」が始動
先の通常国会で6月5日に、改正社会福祉法が成立した。「8050問題」や「ダブルケア」など複雑化している家庭に対応し、介護や子育て、貧困などの自治体の相談窓口を一本化するとしている。また、あまり話題になっていないが社会福祉法人同士が資金融通できる新制度「社会福祉連携推進法人」が盛り込まれた。日本の社会保障の大きな担い手であることに変わりない社会福祉法人に「変革」を促す制度だ。昨今の人手不足の解消につながる手立てとしても活用できる。その仕組みとは。
人手不足の深刻さがもたらした事件が昨年10月に立て続けに起きた。静岡市で3カ所の特別養護老人ホーム(特養)が閉鎖され、合わせて133人の入居者が同市内外の61の特養や老人保健施設に転居させられた。運営者はいずれも社会福祉法人ライト。前月に突然、同法人が静岡市に「資金繰りが悪化したので廃止を検討中」と伝えていた。その1週間後、現場職員が同市を訪れ「利用者へのケアが続けられない。転居先の確保や他の法人への運営移行をしてほしい」との緊急嘆願書を提出した。
同市は「生命にかかわる緊急事態」として急きょ、入居者の転居先を手配。同法人の本部は岡崎市にあり、所管は愛知県。同県では「辞めた多くの職員の補充が追い付かないため、必要な職員配置ができなくなった。そのため入居者数を減らし、収支の悪化を招いたようだ」と話す。
東京都区内の特養でも、職員不足のため経営難に陥り、隣の区から別の社会福祉法人が支援に入り、昨年10月に理事長など役員が総入れ替えとなった。
都心部の好立地、定員約100人の大型施設。介護保険法上の職員配置基準を満たせなくなるとともに入居者数を抑え出し、一昨年8月の利用率は80%を割り、昨年10月には70%以下まで落ち込んだ。業界では「94%が採算ライン」と言われる。
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特養などの入所系の福祉施設は第一種社会福祉事業とされ、社会福祉法人と自治体の占有事業。第2種事業の訪問介護やデイサービスなど在宅サービスの主要な担い手である株式会社やNPO法人などは参入できない。このため経営危機に陥った社会福祉法人の救済には同業者しか関与できない。
人手不足の解消には、離職者を減らすことがまず第一。そのために職員研修の充実が必要とされる。加えて採用手法の向上が欠かせない。だが、個々の社会福祉法人では、日々の業務に追われ採用や研修への余力がなく、そこへ昨今の求人難が直撃した。
「介護報酬の削減が続いたため採用の専任者を置けなくなった。人材紹介会社や派遣会社への依存が高まり、その高額な手数料が人件費を引き上げている」と複数の特養関係者は悩みを明かす。