当連載ではこれまで、医療と介護の大改革を検証し、問題点を指摘してきたが、前向きな施策としてサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)、克服すべき課題として「看取り」を前々回と前回で取り上げた。これらケア付き住宅と死生観は共に欧米にあって日本にはなかったこと。今回取り上げるのは、高齢者ケアの主役である社会福祉法人(社福)だ。日本にしかない特異な組織である。前世期の負の遺産とも言われ続け、最近になってやっとメスが入ろうとしている。
特別養護老人ホームの異常な高収支差率と
1施設3億円超という巨額内部留保
社福は利益を求めない公益法人として1951年の社会事業法で誕生し、全国に2万近い法人数を誇る。
社福の大多数は、認可保育園か特別養護老人ホーム(特養)を運営している。約8000の施設に約50万人が入居する特養の運営をほぼ独占しており、保育園の半数を手掛けている。いずれも大量の利用希望者を受け入れられず、その待機児、待機者問題は社会保障制度を揺るがす喫緊の課題となっており、社福の社会的役割に疑問を抱かざるを得ない。
今、社福のあり方が問題視されているのは、介護保険の介護報酬を決める議論からだ。介護報酬は3年ごとに見直され、来年4月がその改訂期。厚労省の社会保障審議会介護給付費分科会が今夏から月2回のペースで開かれ、年末の予算編成を目標に目下審議中である。
その審議の中で、2013年度の介護保険事業者の経営実態調査が公表された。特養の収支差率(収入と支出の差額が収入に占める割合、企業の利益率に近い)は8.7%で、2011年度の前回調査の9.3%とほとんど変わっていないことが明らかとなった。9%前後とは極めて高率である。
在宅サービスと比べてみると異常に突出していることがわかる。在宅サービスの柱である訪問介護では収支差率が前回5.1%、今回7.4%。厚労省が期待を寄せる小規模多機能型居宅介護は前回5.9%、今回6.1%、2年半前に始めた定期巡回随時対応型訪問介護看護はわずか0.9%である。
特養の高い収支差率を見て、「介護報酬が高すぎるからだ。もっと切り下げられる。切り下げても介護職員の給与は上げられる」と財務省が主張し始めた。事業会社の売上高経常利益率の平均は5%程度。一般の中小企業の利益率は2~3%、2013年度は2.2%である。特養の8.7%をこの水準まで落とせるとして、厚労省に介護報酬の6%削減を求めてきた。
介護保険の総費用10兆円のうち2割も占めるのが特養。それだけに特養の経営実態が介護報酬を左右しかねない。実現すれば6年ぶりの「マイナス改定」となる。介護職員の低賃金や人手不足を踏まえ2009年度以降プラス改訂が続いていた。現在の介護報酬の総額は約10兆円だから、6%は約6000億円の軽減になる。
また、介護報酬を下げても、その分を職員の処遇改善に絞って回す加算方式にすれば、介護職員の給与は決して下がらないという。